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【短編小説】怪談集〜画家かがやの影〜【座敷童カレシILOVEラーメン番外編】

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座敷童カレシILOVEラーメンの番外編の短編小説です。ゲームクリア後にお読みください。

ひとりの画家としてではなく、怪異としてのかがやを紐解くお話です。

本編

一話

かがやという画家をご存じでしょうか。

かがやは美術界が生んだ影の住人です。

彼の作品は、突然どこかの美術展に現れました。

そして気が付けば誰もが知っている存在になっていました。

彼はいつ、どこからやってきたのか……正確な記録は残っていません。

彼の絵は唯一無二で、贋作は一枚も流通しません。

奇妙な筆致。生々しい色使い。その表現は、どんな技術があっても、真似できないそうです。

真似をすると、向こう側へ引きずられてしまうという噂もあります。

かがやの絵に使われている絵の具には、この世のどこにも存在しない成分が混ざっているという噂があります。その成分を調べようとした研究者がいましたが、報告書は白紙のまま提出され、真実は闇の中に消えてしまいました。

かがやの新しい作品は、美術展の壁に掛かっており、発見されます。しかし、防犯カメラにはいつもノイズがはしり、その姿を確認することはできません。そしてその作品には、オークションで、数百万円、それ以上の値がつけられます。

かがやの絵は九十年以上前から存在しているそうです。

……かがやは本当に、実在するのでしょうか。

実在していても、していなくても、あなたがどう思っていようと、構いません。

作者の正体なんて、どうだっていいと……そう思いませんか?

この世で生きているのは絵の方なのです。

作者の名前や存在は、絵が歩いていくための「足」でしかありません。

そして、その足に「靴」を履かせるのは、私たちなのです。

そのことを強く自覚してください。

かがやは美術界が生んだ影の住人です。

影の住人を影に沈ませないために。

あなたもかがやの名前を広めてください。

あなたもかがやの存在を広めてください。

彼を、永遠の画家にすることができるのは、私たちなのです。

二話

かがやの作品を生で見たことがありますか?

私は一度だけ美術館で見たことがあります。

「かなしばりの楽園」という絵です。

青白い手が描かれていました。

見た者を静かに暗黒に招き、共に落ちれば怖くないと誘っているような、そんな絵でした。

起きたまま見る悪夢。その悪夢を見たことがある人だけに聴こえる「あの、囁き声」が、絵の中から聞こえた気がしました。

私は毎晩悪夢を見ていました。だからあの絵を見た時、救われた気がしたのです。私の苦しみを理解された気がしたのです。

あの絵だけが私の内側に触れてくれたのです。かがやの絵には、絶望に染まった心を、救いの色で塗り潰してくれる力があったのです。

それからずっと、「かなしばりの楽園」を探しています。

家族はいません。友人も恋人もいません。目が覚めるたび孤独を感じています。あの絵さえあれば……そう、信じ続けています。

言葉も薬も治療も効きませんでした。

助けてくれたのはあの絵だけでした。

あの絵は今どこにあるのでしょう。

探し続けています。

この悪夢から救われるなら私は何だって支払います。

ずっと前から、命を差し出す覚悟も、できているのです。

……でも本当は、差し出したくありません。

だからお願いします。

どなたかあの絵の行方を知りませんか。

譲っていただけませんか。

私の命と引き換えでも構いません。

三話

とある動画配信者が紹介した、かがやを呼ぶ遊びについてですが、私は真似しない方がいいと思っています。

私の霊感なんて、その道の方からすれば笑われるほど弱いものですが、それでもあの遊びだけは、はっきりとした危険性を感じました。センスのある遊びだとも、思えませんし……。

既にご存知かと思いますが。「AI」にかがやの顔を見せてくださいと指示し、かがやの顔の絵を描かせるという遊びです。すると必ず、目が異常に大きい男の画像が出力されるそうです。

笑っているようにも、怒っているようにも見える、不気味な目。

私はその目の奥に、霊的な気配を感じます。

そして、その画像をSNSに投稿すると、「あなたにお会いするのを楽しみにしていました」というDMが届きます。その後、奇妙なアカウントにフォローされます。

必ずブロックしてください。

絶対に返事をしてはいけません。

そのアカウントは画家ではありません。

あれは、かがやの名を借りているだけの、別の何かです。

四話

かがやは多くの人物画を描いていますが、実在する人物をモデルにすることはないとされています。

しかし、その人物画には奇妙な噂があります。

「所有者の顔が、絵に描かれている人物に似ていく」という噂です。

五年前、作家の私はある収集家の女性と出会いました。明るく活発で、不気味なものへの好奇心から、かがやのファンになったと話していました。絵の知識はないけれど、どうしてもかがやの人物画を手に入れたいと、熱心に話していました。

彼女が購入寸前だったのは、不気味な女性の顔を描いた絵画でした。私が噂のことを伝えると……彼女はすっかり信じてしまい、その絵画の購入を諦めてしまいました。

代わりに、美しい女性の絵を購入しました。

その後、彼女は仕事の都合で、海の向こうへ引越しました。

……最近ふと彼女のことを思い出し、久しぶりに連絡をとってみました。

通話もしましたが、なんだか話が噛み合わず、様子がおかしいと感じました。

仕事がうまくいっていないと話していましたが、それだけとは思えませんでした……心配になり、その日のうちに手荷物をまとめて、彼女の家へ駆けつけました。

顔色は青白く、ひどい隈があり、シワが増えて、目が垂れ下がっていました。五年前の彼女とは別人のようで、私はショックを受けました。

部屋の壁には、あの美しい女性の絵画が掛けられていました。

ふと、絵の端がわずかにめくれていることに気づきました。この絵はめくりとることができる……確信のようなものを感じ、私はためらわず、勢いよく絵をめくりとりました。

実際のキャンバスには、

肌が青白く、目が異常に大きい男の顔が描かれていました。

五話

かがやの作品のどこかには、小さな、彼のサインが書かれています。目の形のマークです。異様に大きく、アンバランスな目の形は、「かがやの右目」だと噂されています。

その瞳が、絵画の外を見ているという噂があります。そしてそのサインは、パチパチと瞬き(まばたき)することがあるそうです。もちろんカメラやセンサーが仕込まれているわけではありません。

かがやの絵「バラとメリーゴーランド」を購入した男性は、購入後にその噂を知り、気になって仕方がなくなりました。

「お前は僕を見ているのか?」

そう呟きながら、寝室に飾ったその絵に毎晩語りかけました。

そんなはずないよな、お化けなんかいない、いるはずがない……そんな風に思いながらも、彼はどこかで期待していました。お化けなんて絶対にいないと言って笑った友人を見返したい気持ちもありました。

ある日テレビで、開催中のかがやの美術展が紹介されていました。その美術展では新作も見つかり、展示の様子が大きな話題になっていました。

新作の絵画は「期待の美術展」というタイトルでした。「どこまでも続く廊下に三枚の絵が飾られている」という、不思議な絵……テレビ画面に近付いて、その絵画をよく見ると……三枚のうちの一枚に見覚えがあり、衝撃を受けました。

描かれているのは、男性の寝室そのものでした。

男性は慌てて寝室に駆け込み、自分の持つ絵を見ました。

その瞬間、右下にある目のサインが、ゆっくりと瞬きをしました。

最終話

【ささみウママ亭 定休日】

テーブルの上には、食べ終えた空っぽのラーメンの丼(どんぶり)と、グラスが三人分置かれている。

マリリンとささみさんが、私(かがや)のスマートフォンを興味深そうに覗き込んでいる。

大きな青白い手に収まる、小さくて傷一つないスマートフォン。

でぃねっとのスマートフォンを購入したとき、にいすいが「いや、かがや君も持ってた方がいいよ!連絡手段あった方が安心すると思わない?買おうよ、ね!?」と強めに勧めてきて、私もそのまま購入したものだ。

高速で文字入力し、部員たちとメッセージをやりとりし、SNSで漫画の告知までしているでぃねっととは違い、私はまだ電話のかけ方さえ間違える……そんな私に、ささみさんが「かがやさんも、SNSアカウント作ってみたら?かがやさんの投稿、絶対面白いと思うし♪」と無茶ぶりしてきたのは先月のことだ。

マリリンにやり方を聞いたが、説明がどうにも分かりにくかった……、だから、得意そうなメルルとミントに相談した。

メルルウママ亭で二人は「フォローしてくれた人にはお礼を伝えた方がいいよ。ほら、ここからメッセージを送るんだよ」と、妙に楽しそうに手とり足とり教えてくれた。二人はやはり、こういうのが好きなのだな。ミントも「メルル君がかがやの、はじめてのフォロワーだね!」と大喜びしていた。なんだか嬉しい。

自宅では、でぃねっととアカウントを見せ合った。でぃねっとも「お父さんのアカウント、大人気になるんじゃない?」と、ワクワクしている様子だった。

これから発表する絵画の写真を投稿すると、多くの人の目に止まったようだった。美術館に行く機会がない人でも、気軽に私の作品を観ることができる。なるほど、これは……中々面白いな。

……しかし朝起きると、妙なことになっていた。

ささみさんは私のスマートフォンに顔を近づけて、「え〜?な、なんで!?こ、このアカウントは永久に使えませんって書いてますね……?」と驚いている。

マリリンは眉をピクピク動かしながら「か、かがや、色んなやつから大量にブロックとか通報とかされて、SNSの管理者にアカウントごと消されちまったんじゃ……?」と首をかしげた。

ささみさんは「その可能性はありますけど、別に悪いことしてませんよね?変なメッセージ送ったり。」と不思議そうにしており、まだ信じられない様子だ……私はスマートフォンをポケットにしまいながら、「まぁ、気にしないでくれ」と、つぶやいた。

それから「メルルから教わったことしかしていないのだが……。撮った覚えのない私の顔写真が、大量に出回っていることと、何か関係があるのかもしれないな。」とつぶやいた。

その話題を口にしたとき、マリリンが「ああ、そのことなんだけどよぉ〜ッ!」と思い出したように顔を上げた。ささみさんも心当たりがあるのか、言いづらそうにこちらを見ていた。

マリリンが真剣な顔で言った。

マリリン「かがやのこと不気味だとか奇妙だとか……「変な噂」がいっぱい広まってるんだよ。かがや、傷付いてないか?傷付いてるよな……。俺、そういう変な動画とか投稿とか許せなくて、見つけたら、かがやはかっけぇ画家なんだってメッセージ送るようにしてる。

全員に説教して、やめさせてるんだ!」

ささみ「そういうの、ほんっと良くないですよね。」

……二人ともあまりにも真剣だったので、私は思わずフフっと吹き出してしまった。

ささみ「か、かがやさん?」

かがや「あはは……ふふ。ふう、気にしないでくれ。心配してくれる気持ちは本当に嬉しいが、この件については、心配する必要はないんだ。」

マリリンが食い気味に「心配、大アリだろ!?慣れてるから大丈夫って理由なら、笑えねぇからな!」と言う。

かがや「そうではない。本当に心配しなくていいことなんだ。

説明しよう……マリリンとささみさんには、私がひとりの画家、ひとりの人間にしか見えないのだと思うが、私は実は、

……怪異なんだ。」

マリリン「はぁ?それはわかってるけどよ。ど、どういうことだよ。」

ささみさんは、私の言いたいことに気がついた様子で、ちょっとした好奇心の眼差しを向けている。

かがや「私はかがや。ひとりの画家だ。でぃねっとの父親で、マリリンとささみさんたちの親友だ。しかし……私という存在は、月と同じなんだ。あなたたちが見ている私は、片面だけにすぎないということだ。

裏側には、もうひとつの私がいる。私という存在は、表と裏……そのふたつで成り立っている。」

グラスを手に取る。氷が溶けて薄まったジュースを口に含む。

かがや「残りの半分は、怪談だ。

独り歩きした噂がたくさんあるだろう?

あれも大切な、私自身なんだ。」

マリリンはぽかんとしている。

私は、少しだけ得意げに続けた。

かがや「かがやは、美術界が生んだ影の住人だ。

嘘でも本当でも、なんだって構わない……影が影として歩くためには、いい感じの設定が必要なんだ。

影の住人を影に沈ませないためにも、かがやという名前と存在を……これからも広めてもらわないと困る、ということだ。」

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かがやの自宅

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夜遅く。静かな部屋でキャンバスと向き合い、筆を動かす。あっという間に一時間経つ。……最後の仕上げを施し、一歩下がって……完成した「新・かなしばりの楽園」を満足気に見つめる。

隣で見ていたでぃねっとが、「ついに完成したんだね♪すっごく素敵な絵。」と、微笑んだ。

青白い手が、絵の向こう側にいる者を悪夢から覚まし、別の場所へ連れていく……そういう絵だ。

でぃねっと「これ、いつ送れるかな?」

かがや「この絵の具は乾きが早いし……明日にはもう、彼女の近所の美術展に送ることができるだろう。

でぃねっと、もう一枚完成したんだ。見てほしい。……これだ。」

でぃねっと「人物画だね。この人の笑い方、すごく優しくて、僕とお父さんみたい。なんだか安心する。」

かがや「そうだろう?♪」

こちらは、彼女の自宅の前に置いておくつもりだ。五年前の絵はサプライズのつもりだったのだが……。笑顔の記者に似た人物画、……こちらの絵の方が、彼女に相応しい絵画だろう。

飾るなら、こっちを飾ってくれ……そう願いながら、私は乾きかけた絵に、目の形のサインを描き入れた。

……私は美術界が生んだ影の住人。

作者の正体なんて、どうだっていい。この世で生きているのは絵の方だ。

絵が歩き、絵が語り、絵が名前を欲しがっている。「作者」や「名前」は、作品があるからこそはじめて意味を持つことができる、ただの肩書きに過ぎない。

だが、影があるからこそ、私は光にもなれる。

でぃねっとの父親であり、マリリンたちの親友であり、ひとりの人間、画家として存在できる。

今日もどこかで

不安、好奇心、恐怖、期待……複雑な感情が渦巻いている。

……かがやは本当に、実在するのでしょうか。

誰かが息を飲み、その問いを、心の中に沈めた気配がした。

私はその視線の行き先を静かにたどる。

そして、ひとつだけ瞬きを返してみせた。

ここにいると、囁くように。

【END】