座敷童カレシPV第四弾公開!イベント(OIGS)参加の感想記事公開!
web小説ソクミタの影(全三話完結)荒花ぬぬの作品

小説「ソクミタの影④」【ソクミタの正体編】

web小説
この記事は約30分で読めます。

こちらは「ソクミタの影1」「ソクミタの影2」「ソクミタの影3」の続編です。読んだことがない方は、ソクミタの影1から読んでみてね。

悪人「ロウソク」と警察官「ソクミタ」の、愛と正義がぶつかるダークファンタジー

※怖いお話なので注意

「3」で物語は完結していますが…ソクミタの心にはまだ、語られなかった想いと「影」が残っている もう一度、作品のテーマと向き合って、丁寧に書こうと思い、続編を制作しました!ソクミタの影4は、37を書いた時に物語の後味を意識してカットした、ちょっと可愛い?シーンや、ソクミタの正体を深掘りして、答え合わせするような内容……お楽しみくださいませ!

……その愛は、美しくて罪深い

はじめに

作品をお読みになる前に以下の注意事項を必ずご確認ください。異性同性間の恋愛表現、残酷な表現等を含みますので、自己責任でお読みください。

過去作はこちら!

関連作品(知らなくても多分大丈夫だけど、知っているとさらに楽しめる作品!!)

星のはなびら1~永遠の恋と不死の星~ 二章まで

星のはなびら1~永遠の恋と不死の星~ 一章「ひまわりが咲く、君に捧ぐ」

星のはなびら1~永遠の恋と不死の星~ 二章「沈む、トリフォリウム」

座敷童カレシILOVEラーメン(「にいすい」が登場)

キャラクターソング

本編

【御約束山・ソクミタ】

早朝の風が、御約束山の頂を通り抜けていく。

わたし(ソクミタ)は高い木の上で、空と、人里を眺めて……世界の目覚めを静かに見守っていた。

桜の花びらが風に揺れる。森が息をしているのが伝わってくる。

春が終わろうとしている。

静かで、やさしい時間だった。

今日は休暇をもらっている。……それでも、パトロールには出るつもりだ。

木から降りる。ふわりと大地に触れる。

山道を歩き、本殿の前を通り過ぎる。整った砂利道を進み、鳥居をくぐると……

馴染みのある声が、春風に混ざって届いた。

にいすい「ソクミタ兄さん、今、話せる?

今日、休みだって聞いてたから……会いに来たんだ。」

ソクミタ「ああ、久しぶりだな、にいすい。その表情……なにか相談事があるのか?」

わたしの正体は、御約束山そのもの。

わたしがこの地に宿る限り、この山は息をし続ける。

この山は、自然と神秘の力に満ちている。植物や動物だけでなく、妖怪や精霊までもが生まれるくらいに……。

にいすいもそのひとり。

彼はこの山から生まれた妖怪だ。頭から生えている梨の葉っぱが、ふわふわと風に吹かれて揺れている。

彼らは、わたしの魂を分け与えられた兄弟のような存在で……人間から見れば、神の使いと呼ばれるような立ち位置だろう。

にいすいは、座敷童(ざしきわらし)という妖怪だ。座敷童は空からポンッと落ちて生まれ、最初から大人の姿をしている。生まれながらに、人を幸せにする使命を持っている。彼はいま、美術学校の校長として、人々の幸せを見守っている。座敷童たちは週に一度、集会を開いて使命感を共有し、支え合っているらしい……真面目で、優しい種族だと思う。

ふたりでベンチに腰かけると、にいすいが勢いよく話し始めた。

にいすい「聞いてよ〜、最近生まれた座敷童を僕が面倒みることになったんだ。でも、どうしたらいいのか全然わかんなくてさ……。何をあげても、どこに連れて行っても無関心で、ずっと下向いててね……。渾身のギャグも、鼻で笑われたんだよ。兄さんはどうやって僕を育てたの?聞かせてほしい。」

ソクミタ「どうやって……と言われてもな。山で自由に遊ばせていただけだ。……覚えてないのか?」

にいすい「まぁね、何十年も前のことだし……まさか放置してたわけじゃないよね?」

ソクミタ「そ、そんなことはない。はははッ。

……美味しいものをたくさん食べさせていたな。果物や木の実、きのこ……。

ああ、でもきのこを食べるときは気をつけろ。お前、一度しにかけたんだ。……あの時は悪かった。」

にいすい「えっ!?いや、今さら気にしないけど……。

美味しいもの、かぁ。確かに大事だよね。

でも、その子は食べることにも興味ないみたいでさ。レストランでも一番安い料理を選ぶし、お子様ランチにも無反応。僕は居酒屋好きだけど、あの子にはまだ早いかなぁって……。

兄さんはどんな料理が好き?感動した料理とか、思い出の味とか……ある?」

ソクミタ「……わたしの場合は、ラーメンだな。」

にいすい「ラーメン?そういえば、ラーメン店は、連れてったことなかったかも。僕は毎晩の締めで通ってるけど。

……マリリン、ラーメン好きかなぁ。

あ、そうだ!もうひとつ話したいことがあって!」

ソクミタ「ん?」

にいすい「学校でも街でも、もう人間のフリするの限界なんだよね……。

メイク頑張ってるとか美容意識高いとか、老けない体質とかって誤魔化してきたけどさぁ……もう、おじいちゃんだし、無理がある。皆、僕のこと怪しんでるんだけど……、それでも、妖怪なんだってカミングアウトするのは怖くてさぁ……!」

ソクミタ「なるほどな……にいすいが妖怪だって、噂を流してやろうか?「実はあの噂、本当なんだ」って話しやすくなるだろ?♪︎」

にいすい「それ、いいアイデアだけど……変な噂は流さないでね?」

ソクミタ「例えば?」

にいすい「梨の妖怪とか、怒ると鬼になる妖怪とか、泣き虫の妖怪とか!そういうのだよ……!」

ソクミタ「……どれもお前らしいだろ。自信を持て!」

にいすい「兄さん、それ褒めてないからね?」

ふたりの笑い声が、森に響いた。

ーーー

人生相談も終わって、

ふたりは木の上に座り、風に揺られながら話していた。

ーーー

にいすい「兄さん、ラーメンって言ってたけど……何か特別な意味があるの?」

ソクミタ「ああ。……ロウソクと食べたんだ。あの時は、心配かけた。」

にいすい「……あの時も、その後も心配したよ。でも、兄さんは強いし、不死身だし。大丈夫だって信じてる。」

ソクミタ「その時のこと、話してもいいか?」

にいすい「……いいの?兄さん、いつも誰にも言わないって顔してるのに?」

ソクミタ「今日は、話してみたい気分なんだ。

お前なら受け止めてくれると思うから。

……海での、あの時みたいに。」

にいすい「……もちろん。そのつもりだよ。」

ーーーー

ーーー

ーー

ハル探偵事務所(ロウソクを救出し、帰宅した直後) 

ーー

ーーーー

ーーー

ーー

その後

ソクミタは、雲に覆われた夜空の下、ブロック塀の影を伝うように、足音をころして進んでいた。街灯に照らされたカーブミラーが、ぼんやりと光っている。

周囲を確認してから、もう一度走り出す。

車の後ろに身を潜め、息をひそめて様子をうかがう。

今にも雨が降り出しそうなジメジメした空気。パトカーの赤色の明かり、人々のざわめき。

自分の荒い息遣いと心臓の音。

ソクミタ「くそ、見つかるのも時間の問題か……?」

手の甲で汗をぬぐった。

ソクミタの背には、眠るロウソクの体重がのしかかっている。重たさに、腕も足も限界だった。

……ハルとベーゼ、ポポタマスたちは、「え?もう少し休んだ方がいいと思うよ!」「泊まっていけば?」「遠慮するんじゃねぇよ!」とソクミタを引き止めた。

しかしソクミタは感謝を伝え、これから警察署に向かうと告げて、すぐに家を後にした。

胸ポケットには、綾小路研究所の悪事を記録したメモリ機器がある。それを武器に、逆境に負けず立ち向かい、警察組織を立て直すつもりだ。そしてロウソクにも、新しい時代をつくる仲間として協力してもらうつもりだ。

……しかし今、ソクミタは警察署には向かっていなかった。

住宅街を離れ、車も街灯も少なくなっていく。

彼は「誰にも見つからない場所」を探していた。

最初は三人に甘えて、数日だけは泊まるつもりだった。その後すぐに警察署へ行き、問題を片付けるつもりでもあった。

しかし……目覚めたロウソクの姿を見た瞬間、どうしても二人きりで話したくなってしまった。

もう、自分の気持ちを抑えきれなかったのだ。

田んぼ道まで移動して、ソクミタは立ち止まった。頬に水滴がこぼれる……雨が降ってきた。

ソクミタ(今は、今だけは……人間として行動しなくてもいいか……。)

ソクミタが夜空に祈り、目を閉じると……

自然の力がふたりの姿を、夜の向こうに隠した。

目を開ける。

そこは、御約束山(おやくそくやま)の鳥居の下だった。灯籠の明かりと、ふわりと浮かぶ不思議な火の玉が、ソクミタのまわりを照らしている。その光を頼りに、木々に囲まれた砂利道を進み、本殿へ向かった。

灯籠の明かりが揺れるたび、ソクミタの瞳に映る光もまた、ユラユラと揺れている。

ただいま……なにも言わなくても、森は分かっている。

言葉を無くした神聖な風が、肌に触れていく。木々の葉が風に揺れる。まるでふたりを雨から守るように。

……沈黙の中、ゆっくりと息をしながら進む。

固く閉ざされているはずの本殿の扉。

ソクミタが近づくと、「おかえりなさい」と言うように、ひとりでに開いた。

足を踏み入れると、その空間はやわらかくきらめき……

ソクミタの自宅の姿に変わっていく。

実際に家へ戻ったわけではない。ここは、ソクミタのために用意された「神聖な空間【永約ノ間】だった。

靴を脱いで、リビングに入る。ソファにロウソクを寝かせると、まだむにゃむにゃと楽しそうに夢を見ていた。

長い髪が頬に貼りついている。少し雨に濡れたせいだろう。

顔を近づけて、指先でそっと髪を払う。

その瞬間、まつ毛がかすかに動いた。

ロウソク「……ん?」

ロウソクは目を開けた瞬間、目の前のソクミタに気づいて……「うぉおわ!!」と叫び、ソファから転げ落ちた。

テーブルに頭をぶつけ、床の上でひっくり返る。慌てて起き上がり、頬をつねって、……笑いはじめた。

ロウソク「ははは……おかしいだろ、まだソクミタが目の前にいるなんてよぉ……夢からさめられねぇ……俺、もう本格的にくるっちまってるな。現実と夢の区別がつかねぇ……いてっ!クソッ!」

ソクミタ「やめろ、腫れるぞ。」

ソクミタはロウソクをソファに座らせる。それからロウソクと向かい合い、手をとり……そっと握った。

ソクミタ「ロウソク、現実だ。わたしは本当にここにいる。

……ほら、手を見ろ。温かいだろ?

夢じゃない。だから、落ち着いてくれ。

……お前と、話がしたいんだ。」

ロウソク「……ぁ?はは……。」

ロウソクは頭を抱え、うめくように笑っている。

ロウソク「そ、ソクミタ、お前と話せんのは嬉しいけどよぉ……はは、マジでわけわかんねぇ。

お前に捕まって、パトカーから降ろされて、独房にブチ込まれて……あ?そのあと?そのあとなんだ?……思い出せねぇ。ここどこだよ。

お前と二人きりって……?」

ソクミタ「お前は独房で倒れたんだ。何者かに呪われていたらしい……。研究所で実験体にされて、ころされるところだった。だから、わたしが助けた。

警察組織はもう崩壊している……。だが、これから立ち向かって、わたしが立て直してみせる。お前の力も借りるつもりだ。

本当はこのあとすぐに警察署に連れていくつもりだった。だが、その前に……お前と二人きりで話がしたくて、ここに来たんだ。

ここは、御約束山の永約ノ間(えいやくのま)だ。」

ロウソクは半ば上の空で、聞くつもりもなさそうな顔のまま、ソクミタの手を握っていた。

……そのぬくもりで、不安をごまかしているようだった。

ソクミタ「わかったか?」

ロウソク「知るか。聞いてなかった……あ~、頭いてぇ。」

ソクミタ(……もどかしいな。)

(今、このまま言葉を重ね続けても、きっと困惑させるだけだ。)

(それでも、わたしは今すぐ、この気持ちのすべてを、……伝えてみたいんだ。)

ロウソクの遺書を思い返す。

【俺は、生まれてこなければよかったんだ。そうすれば、本物の愛情を知れたのだろうか。

ソクミタなら、言ってくれるだろうか。

生きている意味がない人間なんていないって。

生まれてこなきゃよかったなんて、二度と口にするなって。

ソクミタなら、言ってくれるだろうか。】

(ああ、言ってやるさ。)

(わたしの求めている「本物の正義」なんて、どこにも存在しない。わたしの正体がどれほど神聖なものであっても、関係ない。いつも正しい判断をし、すべてを救うことなんてできない。それが、人の心であり、この世の理だ。)

(人の心は、移ろうものだ。お前が求めている「本物の愛情」も、この世界にはきっと存在しない。愛は形にできない。証明もできない。だからこそ、誰もが迷いながら、それが本物であると、信じようとしているだけなんだ。)

(無いものを求め続けても、虚しいだけだ。)

(それでも、わたしは……お前に出会って、初めて、愛がどういうものかを、痛いほど感じたんだ。)

(お前を救えるのは、わたしだけなんじゃないかと思った。

いや、違うな……。

「わたしが」

「わたしの手で」

お前を救いたいと思ったんだ。)

(お前を救うためなら、どんな困難にも立ち向かえる気がする。もっともっと、強くなれる気もする。迷うこともないだろう。お前はわたしに、正義の心を教えてくれたんだ。)

(だからこそ、お前の存在が、愛おしくてたまらない。)

(お前が抱えている孤独と罪。お前は、自分の心は汚れていて、生きる意味なんてないと思っている。

お前の気持ちは痛いほど伝わる……しかし、わたしはお前のその罪を「許す」とは言えないんだ。共に堕ちることもできないんだ。

わたしは、お前にとって最後まで光の存在でありたいから。

……だから、その一線だけは、超えられない。超えてはいけないんだ。)

(そうだ、だから。ずっと一緒にはいられない。)

(それでも、どうしても、お前の人生を受け止めてみたい。お前の心に触れてみたい。)

(お前が裁かれ、二度と会えなくなる前に。)

(この気持ちを伝えてみたい。)

(そしてわたしの手で、教えてやりたいんだ。)

(お前は今、

心から愛されているということを。)

ロウソク「俺は独房にいたはずなんだ……だからこれは夢だ。夢に決まって……。」

ロウソクは無意識なのか、まだわたし(ソクミタ)の手を握り続けていた。落ち着かない様子で視線を泳がせ、指先は震えている。ボロボロになった爪が、彼の心の荒れを物語っていた。

ソクミタ「ロウソク……わたしを見てくれ。」

ロウソクは、ため息まじりに、面倒くさそうに顔を上げた。その瞬間、わたしは迷いなく、その頭をがしりと引き寄せた。

距離が一瞬で消える。息が触れるほど近い。

ソクミタ「……こんな気持ち、知らなかった。お前が教えてくれたんだ。」

言葉の余韻ごと、唇を重ねる。

震える彼の息……熱く、確かに伝わってきた。

好きでたまらなくて、我慢することが罪みたいに思えたんだ。理屈も立場も全部どうでもよくなって、ただロウソクに触れてみたかった。

腕を背中にまわし、強く抱きしめた。ロウソクもためらいながらも、………………同じように手を伸ばしてくれた。

ふたりの呼吸が重なる。言葉を失ったまま、互いの鼓動だけが響いていた。

世界が、ふたりだけのために止まっているようだった。

……顔を離して見たロウソクは、頬を真っ赤に染め、涙で瞳をにじませていた。

もう、あの頃のような鋭さはない。銃もナイフも似合わない。あの恐ろしかった目が、いまは……誰よりもまっすぐに、健気にわたしを見つめていた。

その不器用な眼差しが、

……胸を締めつけるほど愛おしいと思った。

ーーー

……風呂上がり。わたしはタオルで自分の髪を拭いたあと、ドライヤーを片手に、ソファに座っているロウソクに近付き、後ろから声をかける。そして、ロウソクの髪を乱暴にわしゃわしゃとかき回した。ドライヤーの風に髪をなびかせながら、ロウソクは終始ニヤニヤしている。

ロウソク「ソクミタ。お前、正義の味方のくせに……案外、タチが悪いな。想像していたお前と、なにもかもが違う。悪人の俺を可憐な少女扱いしやがって。シラフなんだよな?どうかしてる。」

ソクミタ「どうかしてんのはお前だ。自分が可愛いってことに気が付いてないのは、タチが悪いな。」

ロウソク「は?ねぇよそんなの。」

ソクミタ「可愛いだろ。今の顔、鏡で見てみるか?」

ロウソク「……お前、マジでいかれてるな。」

(その言葉とは裏腹に、ロウソクは嬉しそうだ。)

ドライヤーを片づけて、ロウソクの隣に腰を下ろす。ロウソクは大きなあくびをして、肩の力を抜いていた……乾かしたばかりの髪が少し乱れているのに気づき、前髪を指で整えようと手を伸ばした。

触れた瞬間、ロウソクがピクリと肩を震わせ、顔を真っ赤にした。

ロウソク「いきなり触んなよ……。」

ソクミタ「油断してるほうが悪いんだろ。」

ロウソク「……。」

強がって、気持ちを誤魔化している彼の髪を整え終えて、……わたしは立ち上がった。

ソクミタ「ロウソク、そろそろ行こうか。」

ロウソク「ああ。早く行こう……、警察署。協力させてくれよ。

俺は裏社会の情報なら山ほど持ってる。綾小路研究所のことも、警察の内部も。役に立ってやるさ。罪滅ぼしのためじゃねぇ。お前のため、ってのも違う。

きっと俺自身が、「ソクミタの正義」ってやつを信じてみたくなったんだ。

俺がお前に捕まって、堂々と裁かれる世の中。そんな当たり前のことが、当たり前に通る世界……それが、俺にとっての幸せなんだと思う。だから、できることは全部やる。

今度こそ、自分の手で終わらせたい……。」

……声は静かだが、決意がにじんでいる。しかしわたしは……

ソクミタ「いや、警察署にはまだ行かない。」

と、首を振った。

ロウソク「はぁ?はぁ??ぁ、じ、時間つぶしてる余裕ねぇだろ!?お前、怪しまれて……全部失敗したらどうするんだ!?お、俺は……!」

ソクミタ「時間をつぶしているわけじゃない。やるべきことに優先順位をつけて、順番にやっているだけだ。」

ロウソク「……優先順位?(笑)。面白いことを言う。……ベッドの上で1時間以上過ごした気がするが?アレもソクミタの業務内容に入ってることだったのかよ?優先順位もクソもねぇだろ。わかんねぇから教えてくれよ、正義の味方さんよぉ(笑)」

ソクミタ「ああ。なによりも重要なことだった。お前に、わたしの愛情を感じてほしかったんだ。正義の味方として、必要なことだった。」

ロウソク「……お、お前なぁ……本気で言ってんのかよ……。」

ソクミタ「今日のことを思い出せば、お前は二度と……生きている意味がなかったなんて、思えないはずだ。わたしは満足している。

……それにどうせ、我慢できなかった。包丁を持っていないお前は、……無防備すぎる。ふふ。」

ロウソクは玄関の方へ向かい、あきれたように笑いながら、靴を履きはじめる。

ロウソク「……真面目なのかふざけてるのかわかんねぇな。……で?どこ行くつもりなんだ?報道も出てるんだろ。どこ行っても捕まるってのに。」

ソクミタ「腹、減ってるだろ。お前に何か食わせてやりたいんだ。人間の目なら、わたしの自然の力で誤魔化せる。心配するな。」

わたしもロウソクの隣に移動し、靴を履く……。

ロウソク「はぁ……まぁ、腹は減ってるけどな。」

玄関扉を開けて外に出た瞬間、朝の光が差し込み、御約束山の景色が広がる。

ロウソクは目を見開き、思わず振り返った……そこにあるのは、荘厳な本殿。現実の住宅、街ではなかった。

ロウソク「ソクミタ……マジで人間じゃなかったのかよ。まぁ、薄々は気づいてたけどな。

瞬きと息遣いが作り物っぽいというか、不自然で、次の行動と感情が読めないんだ。急所刺しても生きていた時点で、おかしいと思っていた。……お前、人間のフリ下手だろ?」

ソクミタ「下手なのは否定しないが、お前と出会う前は、普通の警察官として誤魔化せていたんだ。……お前に会ってからは、それができなくなった。もう誰も、わたしが人間だなんて信じてくれないだろう。」

ロウソク「……で、結局なんなんだ?この神社の妖怪か?怪異か?幽霊か?」

ソクミタ「山だ。御約束山そのものだ。」

ロウソク「……山!?わけわかんねぇ……。俺、山と……!?い、いや、考えないでおこう。」

朝の山道を歩きはじめる。冷たくて、澄んだ風が頬をなでた。

ロウソクと、分かり合えた。

カラカラ……と、風の音に混じって、灯篭のそばで小さな風車が回っている。きっと、子どもの妖怪が置いていったのだろう。

……別れは、もう近い。

わかっている。強く、切なく回るそれを見つめながら、胸が、痛いほどに満たされた。

二度と会えない。

もう、会えないんだ。

わかっているのに、まだ心が追いかけてしまう。

風が、わたしの弱さを笑っている。

ロウソク、お前の言う通りだ。

わたしは人間のフリが下手だ。

だって、「フリ」なんてする余裕がないんだ。

お前を思う心だけは、どうしても隠せない。

お前が見ているわたしは、裏も表もない。

これが、……わたしのすべてなんだ。

ソクミタ「何が食べたいんだ?」

ロウソク「……ラーメン。」

ソクミタ「ラーメンか。いいな。ラーメンにもいろいろあるだろ。醤油とか、塩とか……どれにする?」

ロウソク「……。」

ソクミタ「迷ってるな。じゃあ、わたしが決めてやる。ラーメンは味噌が一番うまいんだ。濃厚で油まみれのやつ♪︎チャーシューは多ければ多いほど良い。それから唐揚げと、チャーハンと、ギョウザも必須だな。」

ロウソク「お前、味噌ラーメンが好きなのか?」

ソクミタ「ああ。」

ロウソクの表情が、ふっとゆるんだ。見慣れない、無邪気な笑みが浮かぶ。

人里に降りても、誰もわたしたちの正体には気づかない。ラーメン店に入っても、ただの客として迎えられる。秘密も正体もない。ふたりは、ただの人間にしか見えない。

ロウソク「こんなにチャーシューが乗ってるラーメン、初めて見た気がする。チャーハンもギョウザも、唐揚げまで……ははは、お前、けっこう食うんだな。しかも味噌ラーメン二杯って……。」

ソクミタ「動くことが多いから、燃費が悪いんだ。ほら、「いただきます」しろよ。」

ロウソク「……い、いただきます。」

ロウソクはぎこちなく手を合わせた後、長い髪を束ねて、リボンでまとめた。箸を割る音が、やわらかく響いた。

……スープをひとくち。それから、美味しそうに麺をすすりはじめた。

湯気の向こう。涙ぐんだ瞳を見て……。

わたしは思わず、独り言のように呟いた。

ソクミタ「今だけは、この星が……わたしとお前のために回っている気がする。」

ロウソクはその声を聞き逃さず、小さく笑って「……そうだな」と答えてくれた。

味噌の香ばしさが鼻をくすぐる。笑いと涙が溶けていく。

ーーーー

ーー

ーーーー

ーーー

ーー

【御約束山 ソクミタ・にいすい】

ふたりは木の上に座り、風に揺られながら話していた。ソクミタが心の奥に秘めていた、素直な気持ちと……秘密の思い出話。

にいすいは最初、真剣に聞いていたのだが……。

ソクミタ「とにかく、ロウソクは愛らしかったんだ。はじめてってことはないだろうに、ずっと顔を背けていて、素直じゃなかった。わたしを〇そうとしていたときは、あんなに挑発的だったのに。……ずっと弱々しくて……。それから……ロウソクは、……わたしは、そして……」

にいすい「ごめん!ちょ、ちょっと待って!一回ストップ!」

ソクミタ「ん?」

にいすい「思い出話の八割が下ネタなんだけど!?警察官と○人犯の……いや、別に……ひ、否定はしないけどさ!ずっとその話されると、ちょっとね?心の準備が追いつかないから……。」

話すのが楽しくて、夢中になっているソクミタは、にいすいの突っ込みをスルーして気にせず話し続ける。

ソクミタ「……それから、時間が経つにつれて、あいつもノッてきてな。その様子を見たら、わたしも更に……それから、それで……」

にいすい「……(無言)」

ソクミタ「おい、寝るな!人の話は最後まで聞いた方がいい。」

にいすい「兄さん……受け止めるって言ったけど、本当に困るよ。そういうこと、真面目な顔で言うの……!!!」

ソクミタ「〜で、……それで、……だ……という思いもあって。とにかく、いい夜だった。そういうこともあって……それで……だから、わたしは警察官をやめようと思うんだ。

今すぐではなく、世の中や人々が困らないように、年月をかけて少しずつ準備をしていくつもりだ。今のわたしの存在は、いつか風に溶かして……新しい人生を探してみようと思う。」

にいすい「えっ!?な、なんて!?も〜、重要なことをサラッと言うの、やめてよ!」

ソクミタ「……今も、あいつに会いたいんだ。この星には死後の世界がある。だが、わたしは不死身の存在だから……待っていても、永遠にあの場所へは行く機会はないだろう。

二度と会わない、会えない。そういう結末だ。この世の理に則って、そう決意したはずだった。

……それでも、それでも。あいつにもう一度会いたい。今さら会いに行っても……あいつは笑ってくれるだろうか。」

にいすいは、兄の横顔を見つめ、ふっと微笑んだ。

にいすい「……兄さん、ほんとに不器用だよね。不思議な力、いっぱいもってるのに♪︎」

彼は優しく肩を叩いて、少し遠くを見つめた。

にいすい「僕たち座敷童は現世の妖怪だし、死後の世界のことなんて、さっぱりわからないよ。どんな場所なのかも、見たことないし。聞いた事くらいはあるけどね。兄さんも……行ったこと、ないんだよね?」

ソクミタ「ない。この星には、この星の理(ことわり)がある。人には人の、生と死の循環とからくりがある。わたしは、それを壊してはいけないと思い続けてきた。わたしなら実際は越えられる境界だが……人として守りたかったんだ。」

にいすい「うん……。でも、行くとしても、きっとまだまだ先でしょ?僕も少し調べてみるよ。焦らなくていいと思う。ほら、兄さんって、思い立ったらすぐ行動するタイプでしょ?何かするときは、僕にもちゃんと相談してね?ぜったいだよ、約束!」

ソクミタ「……ああ。約束しよう。」

にいすいは、安心したように立ち上がり、遠くの空を見つめながら、ゆっくりと語りはじめた。

にいすい「……兄さんさ。警察を立て直して、ずっと戦い続けてきたよね。誰にもできないことに挑戦して、たくさんの人を救ってきた。あの頃より、ずっと平和になった。だから僕も、兄さんみたいな正義の味方とか、リーダーとか……そういう存在に憧れてるんだ。」

にいすいは、柔らかく笑って続ける。

にいすい「でもね……兄さんの力の源って、世界を救いたいとか、そんな大きな夢じゃなかったと思うんだ。

たった一人を心から愛してた……その気持ちこそが、兄さんを動かしてたんだと思う。

兄さんは、彼が残したパズルの欠片を、一つひとつ拾い集めてきたんだよね……絵は未完成かもしれない。それでも、兄さんはそれを彼に渡すために揃えてたんだと思うよ。」

にいすいは目を閉じ、少しだけ声を落とした。

にいすい「兄さんは、……禁じられた恋しちゃったなって思ってるんだよね。

……神様も、こんな風に人間を好きになってしまうんだなって……僕は恋愛経験まだないし……、兄さんを見てると、不思議な気持ちになるんだ。

兄さんは、どんどん人間に近づいていく。もっと、やわらかくなっていく……僕はそんな兄さんのことも好き。

だから、自分の気持ちに正直でいていいと思う。

どんな道を選んでも、兄さんなら大丈夫。」

ソクミタ「ありがとう。お前はいつも、まっすぐで頼もしいな。……話の続きをしてもいいか?」

にいすい「い、いいけど……。」

ソクミタ「その後、ふたりで風呂に入ったのだが、その時ロウソクが……」

にいすい「も〜、まだ下ネタ続くの!?」

もういいよ!また今度ね!と、にいすいは軽く笑って立ち上がった。

ソクミタは満足そうにその背中を見送り、静かに手を振った。

ーーーー

永遠なんて、どこにもない。本物も、偽物も、答えも。すべては、変わり続けていく。そして万物は、やがて風に流され、溶けていく。

ーーーー

ーーー

ーー

【回想(ロウソクと別れてから数年後)】

磯の匂い。冷たい海風。波の音が、遠くの悲しみを運んでくる。

ソクミタは不死身の○人鬼「ゆうぎ」と「しんげつ」を追っていた。連日の報道は熱を帯びていたが、映し出されるのは「救いのない現実」ばかり。

……ふたりを追う、ソクミタと警察官の仲間たち。しんげつ(ゆらめき)が、ロウソクの実の息子だという情報を、ソクミタは掴んでいた。仲間をひとりも失いたくなかった。それでも彼を信じる者たちは、ソクミタの背中に続き、銃を握りしめていた。

ついに決着がついた。心配したにいすいが家を飛び出し、最終決戦の場……海岸にたどり着いたときには、もう遅かった。

倒れた仲間たち。砕けて、散乱した銃弾。

サイレンの音が、海の向こうで泣いている。

凍える嵐の中。

壊れたトンネルを抜けた先で……

にいすいはひとり、波打ち際で崩れ落ちる影を見つけた。

にいすい「兄さん!!!」

駆け寄り、抱きしめる。その体は冷たく、指先まで震えていた。

ソクミタ「……あぁ。

……みんな、死んでしまった。

どれほど祈っても、どれほど願っても……届かなかった。

自然の理を操ることも、魔法を支配することもできる。この身は不滅だというのに……どうして、ひとりも救えなかったんだ。」

壊れた声が、波に溶ける。

ソクミタ「この世は、なぜ……生を望む者から、それを奪っていくのだろう。

わたしは「神」だ。

……それなのに、誰の悲しみも終わらせられなかった。

ロウソクの前ではあんなにも自由になれたのに。

今のわたしは……ただの人間のままに、立ち尽くしているだけだ。

……あいつの前では、わたしは「神」にも「人間」にもなれたんだ。

永約ノ間にも招き入れた。あいつは人間なのに……わたしは何も恐れず、禁忌を破った。

でも、今は……「人間」としてしか動けなかった。」

その言葉に、にいすいが小さく震える。

ソクミタ「……にいすい。わたしは、ロウソクを失ってから、ずっと迷っていたんだ。

きっとあの時の勇気も、理由も、どこかに置いてきてしまったんだ。

それでも戦おうとした。戦わなければいけないと思った。

……だが、できなかった。神としての力を使うことが怖くなった……。

もう、誰かを救うために奇跡を使う資格なんて、ない気がして……。」

にいすいは、震えるその背を抱きしめる。

ソクミタ「ロウソクは、もうこの世にはいない……それなのに!!

……わたしはまだ戦っている。

どうして!?

何のために!?誰のために!!??

……そのことが、寂しくて、痛くて、たまらない。

こんなわたしに……手を合わせる意味なんかあるのか。

ああ、にいすい……わたしを止めてくれ。壊したっていい。

この世界を閉じ込めてしまいそうなんだ。

誰も悲しまない楽園に、すべてを……この手で……。

にいすい「……大丈夫。兄さんは、そんなこと、できないよ。優しい神様だから。そうでしょ?」

波の音が、ふたりを包んだ。

にいすいは祈るように、何度もつぶやいた。

「だから、大丈夫……。」

ーーーー

ソクミタにとって、この星のすべても、宇宙のすべても、ただ一瞬の風のようなものだった。

風が吹き抜ければ、季節はめぐる。春も夏も秋も冬も、彼の前を通り過ぎていく。しかしソクミタはどの季節にも属さない……不変の存在だった。

……彼の中では、時間が止まっている。

あの日のラーメンの湯気も、ロウソクの笑い声も、永遠に消えないまま、胸の奥でくすぶり続けている。

……ロウソクと過ごした「永約ノ間」

あの切り離された不思議な場所こそが、ソクミタが本来いるべき場所だった。

あの時の彼は、神でもなく、人でもなく、ただ愛する誰かと生きていた存在だった。

今の彼は、本来の姿……この世を見守る観測者へと戻った。

しかしその瞳はもう、ただ一人の人間を見つめ続けている……。

風が吹くたび、彼は思う。

「この風の向こうに、ロウソクがいる気がする」と。

……不変の存在でありながら、たった一度の変化を愛したこと。

それが、ソクミタという神の、最も人間らしい罪だった。

ーーーー

ーーー

ーー

時が経ち……。

その日。にいすいは、マリリンのラーメン修行に付き合ったあと、胸騒ぎを覚えて、帰る前に御約束山へと足を向けた。

守護の風。優しい森の音。いつもと変わらないはずの景色。けれど、ソクミタの姿がない。どこにも、いない。

にいすい「……兄さん、ほんとに行っちゃったの?異世界(死後の世界)に……。」

足元に、白い封筒がひらりと落ちていた。

「にいすいへ。面白いことになったんだ。とにかく探さないでくれ。落ち着いたら連絡する ソクミタ」

にいすい「面白いことって!?落ち着いたらって……いつだよ、もう、心配ばっかりかけて……。」

そう言いながらも、口元には小さな笑みが浮かんでいた。

にいすい「……でも、兄さんらしいな。まっすぐで、不器用で……。」

春風が吹き抜ける。その風の向こうに、あたたかい気配があった。

ーーーー

ーーー

ーー

ソクミタは「変わること」そのものに憧れたから、人の形をし、この世の一員になってみたいと考えた。

そして、ロウソクという人間に触れて、罪を知り、痛みを知り、そして愛を知った。

その愛は、神聖な自然の化身を、ひとりの人間へと変えていく……。

人の痛みに生かされて…‥ソクミタはこれからも、変わりゆく世界の中で、正義を求め、愛を探し続ける。

今日も風が吹く。

それは、誰かの涙をつつむ風。そして、誰かの幸せをいのる風。

ソクミタは、その風の中で微笑んでいた。

(…………ロウソク。いまもお前を愛してる。)

【ソクミタの影4 END】

オリジナルテーマソング【ソクミタの影】公開!本編をお読みいただいた後にお楽しみください!

キャラクターボイス(順不同)

成林ジン様(ソクミタ役)

https://twitter.com/Julep_2525

長峰永地様(ロウソク役)

https://twitter.com/A_chi_Nagamine

長峰永地様はロウソクのキャラクターソング「ナイトメアダンス」でロウソクボイスを担当してくださった声優さまです……歌っていただけて嬉しい!!成林ジン様はにいすいと同じ声優さんです、ソクミタも担当いただけて嬉しい……!!ありがとうございました!!!

最後までお読みいただきありがとうございました

(もしよろしければ、SNSで感想を投稿していただけますと、すっごく励みになります♪その際はぜひ、「ソクミタの影」とタイトルをご記載ください♪(見つけたいので……!!!))

これからも応援よろしくお願いします!!