こちらは「ソクミタの影1」「ソクミタの影2」「ソクミタの影3」の続編です。読んだことがない方は、ソクミタの影1から読んでみてね。
悪人「ロウソク」と警察官「ソクミタ」の、愛と正義がぶつかるダークファンタジー
※怖いお話なので注意
「3」で物語は完結していますが…ソクミタの心にはまだ、語られなかった想いと「影」が残っている もう一度、作品のテーマと向き合って、丁寧に書こうと思い、続編を制作しました!ソクミタの影4は、37を書いた時に物語の後味を意識してカットした、ちょっと可愛い?シーンや、ソクミタの正体を深掘りして、答え合わせするような内容……お楽しみくださいませ!

……その愛は、美しくて罪深い
はじめに
作品をお読みになる前に以下の注意事項を必ずご確認ください。異性同性間の恋愛表現、残酷な表現等を含みますので、自己責任でお読みください。
過去作はこちら!
関連作品(知らなくても多分大丈夫だけど、知っているとさらに楽しめる作品!!)
星のはなびら1~永遠の恋と不死の星~ 二章まで
星のはなびら1~永遠の恋と不死の星~ 一章「ひまわりが咲く、君に捧ぐ」
星のはなびら1~永遠の恋と不死の星~ 二章「沈む、トリフォリウム」
座敷童カレシILOVEラーメン(「にいすい」が登場)
キャラクターソング
本編
【御約束山・ソクミタ】
早朝の風が、御約束山の頂を通り抜けていく。
わたし(ソクミタ)は高い木の上で、空と、人里を眺めて……世界の目覚めを静かに見守っていた。
桜の花びらが風に揺れる。森が息をしているのが伝わってくる。
春が終わろうとしている。
静かで、やさしい時間だった。
今日は休暇をもらっている。……それでも、パトロールには出るつもりだ。
木から降りる。ふわりと大地に触れる。
山道を歩き、本殿の前を通り過ぎる。整った砂利道を進み、鳥居をくぐると……
馴染みのある声が、春風に混ざって届いた。
にいすい「ソクミタ兄さん、今、話せる?
今日、休みだって聞いてたから……会いに来たんだ。」
ソクミタ「ああ、久しぶりだな、にいすい。その表情……なにか相談事があるのか?」
わたしの正体は、御約束山そのもの。
わたしがこの地に宿る限り、この山は息をし続ける。
この山は、自然と神秘の力に満ちている。植物や動物だけでなく、妖怪や精霊までもが生まれるくらいに……。
にいすいもそのひとり。
彼はこの山から生まれた妖怪だ。頭から生えている梨の葉っぱが、ふわふわと風に吹かれて揺れている。
彼らは、わたしの魂を分け与えられた兄弟のような存在で……人間から見れば、神の使いと呼ばれるような立ち位置だろう。
にいすいは、座敷童(ざしきわらし)という妖怪だ。座敷童は空からポンッと落ちて生まれ、最初から大人の姿をしている。生まれながらに、人を幸せにする使命を持っている。彼はいま、美術学校の校長として、人々の幸せを見守っている。座敷童たちは週に一度、集会を開いて使命感を共有し、支え合っているらしい……真面目で、優しい種族だと思う。
ふたりでベンチに腰かけると、にいすいが勢いよく話し始めた。
にいすい「聞いてよ〜、最近生まれた座敷童を僕が面倒みることになったんだ。でも、どうしたらいいのか全然わかんなくてさ……。何をあげても、どこに連れて行っても無関心で、ずっと下向いててね……。渾身のギャグも、鼻で笑われたんだよ。兄さんはどうやって僕を育てたの?聞かせてほしい。」
ソクミタ「どうやって……と言われてもな。山で自由に遊ばせていただけだ。……覚えてないのか?」
にいすい「まぁね、何十年も前のことだし……まさか放置してたわけじゃないよね?」
ソクミタ「そ、そんなことはない。はははッ。
……美味しいものをたくさん食べさせていたな。果物や木の実、きのこ……。
ああ、でもきのこを食べるときは気をつけろ。お前、一度しにかけたんだ。……あの時は悪かった。」
にいすい「えっ!?いや、今さら気にしないけど……。
美味しいもの、かぁ。確かに大事だよね。
でも、その子は食べることにも興味ないみたいでさ。レストランでも一番安い料理を選ぶし、お子様ランチにも無反応。僕は居酒屋好きだけど、あの子にはまだ早いかなぁって……。
兄さんはどんな料理が好き?感動した料理とか、思い出の味とか……ある?」
ソクミタ「……わたしの場合は、ラーメンだな。」
にいすい「ラーメン?そういえば、ラーメン店は、連れてったことなかったかも。僕は毎晩の締めで通ってるけど。
……マリリン、ラーメン好きかなぁ。
あ、そうだ!もうひとつ話したいことがあって!」
ソクミタ「ん?」
にいすい「学校でも街でも、もう人間のフリするの限界なんだよね……。
メイク頑張ってるとか美容意識高いとか、老けない体質とかって誤魔化してきたけどさぁ……もう、おじいちゃんだし、無理がある。皆、僕のこと怪しんでるんだけど……、それでも、妖怪なんだってカミングアウトするのは怖くてさぁ……!」
ソクミタ「なるほどな……にいすいが妖怪だって、噂を流してやろうか?「実はあの噂、本当なんだ」って話しやすくなるだろ?♪︎」
にいすい「それ、いいアイデアだけど……変な噂は流さないでね?」
ソクミタ「例えば?」
にいすい「梨の妖怪とか、怒ると鬼になる妖怪とか、泣き虫の妖怪とか!そういうのだよ……!」
ソクミタ「……どれもお前らしいだろ。自信を持て!」
にいすい「兄さん、それ褒めてないからね?」
ふたりの笑い声が、森に響いた。
ーーー
人生相談も終わって、
ふたりは木の上に座り、風に揺られながら話していた。
ーーー
にいすい「兄さん、ラーメンって言ってたけど……何か特別な意味があるの?」
ソクミタ「ああ。……ロウソクと食べたんだ。あの時は、心配かけた。」
にいすい「……あの時も、その後も心配したよ。でも、兄さんは強いし、不死身だし。大丈夫だって信じてる。」
ソクミタ「その時のこと、話してもいいか?」
にいすい「……いいの?兄さん、いつも誰にも言わないって顔してるのに?」
ソクミタ「今日は、話してみたい気分なんだ。
お前なら受け止めてくれると思うから。
……海での、あの時みたいに。」
にいすい「……もちろん。そのつもりだよ。」
ーーーー
ーーー
ーー
ハル探偵事務所(ロウソクを救出し、帰宅した直後)
ーー
ソクミタはロウソクの上半身を起こして、抱きしめた。体温が伝わって、…ロウソクの瞼がぴくりと動いた。
ロウソク「…?」
ソクミタ「…ああ、良かった!見ろ、目を覚ましたぞ!!」
ソクミタは、少し離れたところから見守っていたポポタマスとベーゼ、ハルの方を見て、喜んだ。
抱きしめられているロウソクは、状況を把握できず、狼狽え(うろたえ)ながら「お前誰だよ、気安く俺にさわ…」とソクミタを引き剥がした。「んなよ…」言い終わると同時に、その顔を確認した。
ロウソク「ソクミタ…!?!?!?いや、ソクミタがいるわけねぇか。夢か。しかしこんなにも近くにソクミタがいるなんて、最高の夢だな。」
ロウソクはニヤニヤしながらソクミタに手を伸ばしたが、ソクミタは「触るなッ」とその手を叩いて払った。
ロウソク「は?好きにできないのかよ。つまらない、痛めつけて泣かせてやろうと思ったのに。どうせ悪夢だ。……ッな、なんだ!?」
ソクミタはロウソクに近付いて、顔をじっと見つめはじめた。
至近距離で見つめられて、ロウソクは赤面して困惑しはじめた。
ロウソク「…は?何だ?見るなよ…これは、なんだ…。?…夢だよな?」
ソクミタはロウソクの手に自分の手を重ねて置いた。
ロウソク「何!?ソクミタが俺に触るなんて、おかしいだろう、おかしい。こんな夢ははじめてだ。クソッ…汗のにおい…いい匂い、頭がまわらねぇ。」
ソクミタは「夢かどうか確かめてみるか?」と微笑んで、もう一度、ロウソクを抱きしめた。
強く抱きしめる。ぎゅっと密着して、感触と体温が伝わっていく。それから、ゆっくりと体を離した。
ソクミタ「…ふふ」
ロウソク「…!?」
ソクミタ「さぁ、準備は整った。警察署に行くことにしよう。ロウソクも一緒に来るんだ、力を貸してくれ。
お前がきちんと裁かれる、健全な世の中にするために、立ち向かうんだ。わたしがそこへ、送り届けてやる!さぁ、出発だ!」
ハルとベーゼが、慌てて駆け寄ってきた。
ハル「待って待って!ロウソクさん大丈夫?急に抱きしめられたから、びっくりして気を失っちゃったみたいだよ!」
ベーゼ「白目剥いてるぞ。おい、しぬんじゃねぇぞ!」
夢じゃないと実感し、キャパオーバーしたロウソクは、笑顔で、気持ちよさそうに気絶している。
ソクミタ「なんだって!?や、やはり、まだ体調が優れないのか、もしかして腹も減っているのか?おい、しっかりしろ、目を覚ませ!」
慌てているソクミタを見て、…ポポタマスはなんだか楽しそうにしていた。
ポポタマス(一途だなぁ…♪)
ーーーー
ーーー
ーー
その後
ソクミタは、雲に覆われた夜空の下、ブロック塀の影を伝うように、足音をころして進んでいた。街灯に照らされたカーブミラーが、ぼんやりと光っている。
周囲を確認してから、もう一度走り出す。
車の後ろに身を潜め、息をひそめて様子をうかがう。
今にも雨が降り出しそうなジメジメした空気。パトカーの赤色の明かり、人々のざわめき。
自分の荒い息遣いと心臓の音。
ソクミタ「くそ、見つかるのも時間の問題か……?」
手の甲で汗をぬぐった。
ソクミタの背には、眠るロウソクの体重がのしかかっている。重たさに、腕も足も限界だった。
……ハルとベーゼ、ポポタマスたちは、「え?もう少し休んだ方がいいと思うよ!」「泊まっていけば?」「遠慮するんじゃねぇよ!」とソクミタを引き止めた。
しかしソクミタは感謝を伝え、これから警察署に向かうと告げて、すぐに家を後にした。
胸ポケットには、綾小路研究所の悪事を記録したメモリ機器がある。それを武器に、逆境に負けず立ち向かい、警察組織を立て直すつもりだ。そしてロウソクにも、新しい時代をつくる仲間として協力してもらうつもりだ。
……しかし今、ソクミタは警察署には向かっていなかった。
住宅街を離れ、車も街灯も少なくなっていく。
彼は「誰にも見つからない場所」を探していた。
最初は三人に甘えて、数日だけは泊まるつもりだった。その後すぐに警察署へ行き、問題を片付けるつもりでもあった。
しかし……目覚めたロウソクの姿を見た瞬間、どうしても二人きりで話したくなってしまった。
もう、自分の気持ちを抑えきれなかったのだ。
田んぼ道まで移動して、ソクミタは立ち止まった。頬に水滴がこぼれる……雨が降ってきた。
ソクミタ(今は、今だけは……人間として行動しなくてもいいか……。)
ソクミタが夜空に祈り、目を閉じると……
自然の力がふたりの姿を、夜の向こうに隠した。
目を開ける。
そこは、御約束山(おやくそくやま)の鳥居の下だった。灯籠の明かりと、ふわりと浮かぶ不思議な火の玉が、ソクミタのまわりを照らしている。その光を頼りに、木々に囲まれた砂利道を進み、本殿へ向かった。
灯籠の明かりが揺れるたび、ソクミタの瞳に映る光もまた、ユラユラと揺れている。
ただいま……なにも言わなくても、森は分かっている。
言葉を無くした神聖な風が、肌に触れていく。木々の葉が風に揺れる。まるでふたりを雨から守るように。
……沈黙の中、ゆっくりと息をしながら進む。
固く閉ざされているはずの本殿の扉。
ソクミタが近づくと、「おかえりなさい」と言うように、ひとりでに開いた。
足を踏み入れると、その空間はやわらかくきらめき……
ソクミタの自宅の姿に変わっていく。
実際に家へ戻ったわけではない。ここは、ソクミタのために用意された「神聖な空間【永約ノ間】」だった。
靴を脱いで、リビングに入る。ソファにロウソクを寝かせると、まだむにゃむにゃと楽しそうに夢を見ていた。
長い髪が頬に貼りついている。少し雨に濡れたせいだろう。
顔を近づけて、指先でそっと髪を払う。
その瞬間、まつ毛がかすかに動いた。
ロウソク「……ん?」
ロウソクは目を開けた瞬間、目の前のソクミタに気づいて……「うぉおわ!!」と叫び、ソファから転げ落ちた。
テーブルに頭をぶつけ、床の上でひっくり返る。慌てて起き上がり、頬をつねって、……笑いはじめた。
ロウソク「ははは……おかしいだろ、まだソクミタが目の前にいるなんてよぉ……夢からさめられねぇ……俺、もう本格的にくるっちまってるな。現実と夢の区別がつかねぇ……いてっ!クソッ!」
ソクミタ「やめろ、腫れるぞ。」
ソクミタはロウソクをソファに座らせる。それからロウソクと向かい合い、手をとり……そっと握った。
ソクミタ「ロウソク、現実だ。わたしは本当にここにいる。
……ほら、手を見ろ。温かいだろ?
夢じゃない。だから、落ち着いてくれ。
……お前と、話がしたいんだ。」
ロウソク「……ぁ?はは……。」
ロウソクは頭を抱え、うめくように笑っている。
ロウソク「そ、ソクミタ、お前と話せんのは嬉しいけどよぉ……はは、マジでわけわかんねぇ。
お前に捕まって、パトカーから降ろされて、独房にブチ込まれて……あ?そのあと?そのあとなんだ?……思い出せねぇ。ここどこだよ。
お前と二人きりって……?」
ソクミタ「お前は独房で倒れたんだ。何者かに呪われていたらしい……。研究所で実験体にされて、ころされるところだった。だから、わたしが助けた。
警察組織はもう崩壊している……。だが、これから立ち向かって、わたしが立て直してみせる。お前の力も借りるつもりだ。
本当はこのあとすぐに警察署に連れていくつもりだった。だが、その前に……お前と二人きりで話がしたくて、ここに来たんだ。
ここは、御約束山の永約ノ間(えいやくのま)だ。」
ロウソクは半ば上の空で、聞くつもりもなさそうな顔のまま、ソクミタの手を握っていた。
……そのぬくもりで、不安をごまかしているようだった。
ソクミタ「わかったか?」
ロウソク「知るか。聞いてなかった……あ~、頭いてぇ。」
ソクミタ(……もどかしいな。)
(今、このまま言葉を重ね続けても、きっと困惑させるだけだ。)
(それでも、わたしは今すぐ、この気持ちのすべてを、……伝えてみたいんだ。)
ロウソクの遺書を思い返す。
【俺は、生まれてこなければよかったんだ。そうすれば、本物の愛情を知れたのだろうか。
ソクミタなら、言ってくれるだろうか。
生きている意味がない人間なんていないって。
生まれてこなきゃよかったなんて、二度と口にするなって。
ソクミタなら、言ってくれるだろうか。】
(ああ、言ってやるさ。)
(わたしの求めている「本物の正義」なんて、どこにも存在しない。わたしの正体がどれほど神聖なものであっても、関係ない。いつも正しい判断をし、すべてを救うことなんてできない。それが、人の心であり、この世の理だ。)
(人の心は、移ろうものだ。お前が求めている「本物の愛情」も、この世界にはきっと存在しない。愛は形にできない。証明もできない。だからこそ、誰もが迷いながら、それが本物であると、信じようとしているだけなんだ。)
(無いものを求め続けても、虚しいだけだ。)
(それでも、わたしは……お前に出会って、初めて、愛がどういうものかを、痛いほど感じたんだ。)
(お前を救えるのは、わたしだけなんじゃないかと思った。
いや、違うな……。
「わたしが」
「わたしの手で」
お前を救いたいと思ったんだ。)
(お前を救うためなら、どんな困難にも立ち向かえる気がする。もっともっと、強くなれる気もする。迷うこともないだろう。お前はわたしに、正義の心を教えてくれたんだ。)
(だからこそ、お前の存在が、愛おしくてたまらない。)
(お前が抱えている孤独と罪。お前は、自分の心は汚れていて、生きる意味なんてないと思っている。
お前の気持ちは痛いほど伝わる……しかし、わたしはお前のその罪を「許す」とは言えないんだ。共に堕ちることもできないんだ。
わたしは、お前にとって最後まで光の存在でありたいから。
……だから、その一線だけは、超えられない。超えてはいけないんだ。)
(そうだ、だから。ずっと一緒にはいられない。)
(それでも、どうしても、お前の人生を受け止めてみたい。お前の心に触れてみたい。)
(お前が裁かれ、二度と会えなくなる前に。)
(この気持ちを伝えてみたい。)
(そしてわたしの手で、教えてやりたいんだ。)
(お前は今、
心から愛されているということを。)
ロウソク「俺は独房にいたはずなんだ……だからこれは夢だ。夢に決まって……。」
ロウソクは無意識なのか、まだわたし(ソクミタ)の手を握り続けていた。落ち着かない様子で視線を泳がせ、指先は震えている。ボロボロになった爪が、彼の心の荒れを物語っていた。
ソクミタ「ロウソク……わたしを見てくれ。」
ロウソクは、ため息まじりに、面倒くさそうに顔を上げた。その瞬間、わたしは迷いなく、その頭をがしりと引き寄せた。
距離が一瞬で消える。息が触れるほど近い。
ソクミタ「……こんな気持ち、知らなかった。お前が教えてくれたんだ。」
言葉の余韻ごと、唇を重ねる。
震える彼の息……熱く、確かに伝わってきた。
好きでたまらなくて、我慢することが罪みたいに思えたんだ。理屈も立場も全部どうでもよくなって、ただロウソクに触れてみたかった。
腕を背中にまわし、強く抱きしめた。ロウソクもためらいながらも、………………同じように手を伸ばしてくれた。
ふたりの呼吸が重なる。言葉を失ったまま、互いの鼓動だけが響いていた。
世界が、ふたりだけのために止まっているようだった。
……顔を離して見たロウソクは、頬を真っ赤に染め、涙で瞳をにじませていた。
もう、あの頃のような鋭さはない。銃もナイフも似合わない。あの恐ろしかった目が、いまは……誰よりもまっすぐに、健気にわたしを見つめていた。
その不器用な眼差しが、
……胸を締めつけるほど愛おしいと思った。
ーーー
……風呂上がり。わたしはタオルで自分の髪を拭いたあと、ドライヤーを片手に、ソファに座っているロウソクに近付き、後ろから声をかける。そして、ロウソクの髪を乱暴にわしゃわしゃとかき回した。ドライヤーの風に髪をなびかせながら、ロウソクは終始ニヤニヤしている。
ロウソク「ソクミタ。お前、正義の味方のくせに……案外、タチが悪いな。想像していたお前と、なにもかもが違う。悪人の俺を可憐な少女扱いしやがって。シラフなんだよな?どうかしてる。」
ソクミタ「どうかしてんのはお前だ。自分が可愛いってことに気が付いてないのは、タチが悪いな。」
ロウソク「は?ねぇよそんなの。」
ソクミタ「可愛いだろ。今の顔、鏡で見てみるか?」
ロウソク「……お前、マジでいかれてるな。」
(その言葉とは裏腹に、ロウソクは嬉しそうだ。)
ドライヤーを片づけて、ロウソクの隣に腰を下ろす。ロウソクは大きなあくびをして、肩の力を抜いていた……乾かしたばかりの髪が少し乱れているのに気づき、前髪を指で整えようと手を伸ばした。
触れた瞬間、ロウソクがピクリと肩を震わせ、顔を真っ赤にした。
ロウソク「いきなり触んなよ……。」
ソクミタ「油断してるほうが悪いんだろ。」
ロウソク「……。」
強がって、気持ちを誤魔化している彼の髪を整え終えて、……わたしは立ち上がった。
ソクミタ「ロウソク、そろそろ行こうか。」
ロウソク「ああ。早く行こう……、警察署。協力させてくれよ。
俺は裏社会の情報なら山ほど持ってる。綾小路研究所のことも、警察の内部も。役に立ってやるさ。罪滅ぼしのためじゃねぇ。お前のため、ってのも違う。
きっと俺自身が、「ソクミタの正義」ってやつを信じてみたくなったんだ。
俺がお前に捕まって、堂々と裁かれる世の中。そんな当たり前のことが、当たり前に通る世界……それが、俺にとっての幸せなんだと思う。だから、できることは全部やる。
今度こそ、自分の手で終わらせたい……。」
……声は静かだが、決意がにじんでいる。しかしわたしは……
ソクミタ「いや、警察署にはまだ行かない。」
と、首を振った。
ロウソク「はぁ?はぁ??ぁ、じ、時間つぶしてる余裕ねぇだろ!?お前、怪しまれて……全部失敗したらどうするんだ!?お、俺は……!」
ソクミタ「時間をつぶしているわけじゃない。やるべきことに優先順位をつけて、順番にやっているだけだ。」
ロウソク「……優先順位?(笑)。面白いことを言う。……ベッドの上で1時間以上過ごした気がするが?アレもソクミタの業務内容に入ってることだったのかよ?優先順位もクソもねぇだろ。わかんねぇから教えてくれよ、正義の味方さんよぉ(笑)」
ソクミタ「ああ。なによりも重要なことだった。お前に、わたしの愛情を感じてほしかったんだ。正義の味方として、必要なことだった。」
ロウソク「……お、お前なぁ……本気で言ってんのかよ……。」
ソクミタ「今日のことを思い出せば、お前は二度と……生きている意味がなかったなんて、思えないはずだ。わたしは満足している。
……それにどうせ、我慢できなかった。包丁を持っていないお前は、……無防備すぎる。ふふ。」
ロウソクは玄関の方へ向かい、あきれたように笑いながら、靴を履きはじめる。
ロウソク「……真面目なのかふざけてるのかわかんねぇな。……で?どこ行くつもりなんだ?報道も出てるんだろ。どこ行っても捕まるってのに。」
ソクミタ「腹、減ってるだろ。お前に何か食わせてやりたいんだ。人間の目なら、わたしの自然の力で誤魔化せる。心配するな。」
わたしもロウソクの隣に移動し、靴を履く……。
ロウソク「はぁ……まぁ、腹は減ってるけどな。」
玄関扉を開けて外に出た瞬間、朝の光が差し込み、御約束山の景色が広がる。
ロウソクは目を見開き、思わず振り返った……そこにあるのは、荘厳な本殿。現実の住宅、街ではなかった。
ロウソク「ソクミタ……マジで人間じゃなかったのかよ。まぁ、薄々は気づいてたけどな。
瞬きと息遣いが作り物っぽいというか、不自然で、次の行動と感情が読めないんだ。急所刺しても生きていた時点で、おかしいと思っていた。……お前、人間のフリ下手だろ?」
ソクミタ「下手なのは否定しないが、お前と出会う前は、普通の警察官として誤魔化せていたんだ。……お前に会ってからは、それができなくなった。もう誰も、わたしが人間だなんて信じてくれないだろう。」
ロウソク「……で、結局なんなんだ?この神社の妖怪か?怪異か?幽霊か?」
ソクミタ「山だ。御約束山そのものだ。」
ロウソク「……山!?わけわかんねぇ……。俺、山と……!?い、いや、考えないでおこう。」
朝の山道を歩きはじめる。冷たくて、澄んだ風が頬をなでた。
ロウソクと、分かり合えた。
カラカラ……と、風の音に混じって、灯篭のそばで小さな風車が回っている。きっと、子どもの妖怪が置いていったのだろう。
……別れは、もう近い。
わかっている。強く、切なく回るそれを見つめながら、胸が、痛いほどに満たされた。
二度と会えない。
もう、会えないんだ。
わかっているのに、まだ心が追いかけてしまう。
風が、わたしの弱さを笑っている。
ロウソク、お前の言う通りだ。
わたしは人間のフリが下手だ。
だって、「フリ」なんてする余裕がないんだ。
お前を思う心だけは、どうしても隠せない。
お前が見ているわたしは、裏も表もない。
これが、……わたしのすべてなんだ。
ソクミタ「何が食べたいんだ?」
ロウソク「……ラーメン。」
ソクミタ「ラーメンか。いいな。ラーメンにもいろいろあるだろ。醤油とか、塩とか……どれにする?」
ロウソク「……。」
ソクミタ「迷ってるな。じゃあ、わたしが決めてやる。ラーメンは味噌が一番うまいんだ。濃厚で油まみれのやつ♪︎チャーシューは多ければ多いほど良い。それから唐揚げと、チャーハンと、ギョウザも必須だな。」
ロウソク「お前、味噌ラーメンが好きなのか?」
ソクミタ「ああ。」
ロウソクの表情が、ふっとゆるんだ。見慣れない、無邪気な笑みが浮かぶ。
人里に降りても、誰もわたしたちの正体には気づかない。ラーメン店に入っても、ただの客として迎えられる。秘密も正体もない。ふたりは、ただの人間にしか見えない。
ロウソク「こんなにチャーシューが乗ってるラーメン、初めて見た気がする。チャーハンもギョウザも、唐揚げまで……ははは、お前、けっこう食うんだな。しかも味噌ラーメン二杯って……。」
ソクミタ「動くことが多いから、燃費が悪いんだ。ほら、「いただきます」しろよ。」
ロウソク「……い、いただきます。」
ロウソクはぎこちなく手を合わせた後、長い髪を束ねて、リボンでまとめた。箸を割る音が、やわらかく響いた。
……スープをひとくち。それから、美味しそうに麺をすすりはじめた。
湯気の向こう。涙ぐんだ瞳を見て……。
わたしは思わず、独り言のように呟いた。
ソクミタ「今だけは、この星が……わたしとお前のために回っている気がする。」
ロウソクはその声を聞き逃さず、小さく笑って「……そうだな」と答えてくれた。
味噌の香ばしさが鼻をくすぐる。笑いと涙が溶けていく。
ーーーー
ーー
ー
その後。ソクミタとロウソクは警察署へと向かい、警察組織に立ち向かった。
ソクミタを信じ、帰りを待っている警察官が多くいた。ソクミタは孤独ではなかった。
ロウソクは知っていることを全て話し、裏社会を駆け回って、新しい時代を作ろうとするソクミタ達に協力した。
…警察組織は改心し、綾小路研究所は解体された。
そしてソクミタはもう一度、ロウソクに手錠をかけた。パトカーが止まっており、ロウソクを待っている。ソクミタはこれから新しい事件を調査しに行く。夕焼け空を背に、二人は最後の言葉を交わした。
ロウソク「ははは、ソクミタにもう一度手錠をかけてもらえるなんて、幸せなことだ。」
ソクミタ「相変わらず、変わってるな」
ロウソク「裏社会の闇はまだまだ深い。だが、お前ならやれるさ。」
ソクミタ「ああ、ありがとう。」
ロウソク「頑張れよ、ソクミタ長官♪」
ソクミタ「肩書きなんて何でもいい。だが、警察官に戻ることができたのはよかった」
ロウソク「そろそろ行けよ。じゃあな。ありがとう」
ソクミタ「ああ、またな」
ソクミタは駆け出し、ロウソクはパトカーに乗った。
二人はその後、二度と会うことはなかった。
しかしロウソクは、ソクミタと力を合わせて戦った日々と、ふたりで食べた味噌ラーメンの味を忘れることはなかった。
ーーーー
ーーー
ーー
【御約束山 ソクミタ・にいすい】
ふたりは木の上に座り、風に揺られながら話していた。ソクミタが心の奥に秘めていた、素直な気持ちと……秘密の思い出話。
にいすいは最初、真剣に聞いていたのだが……。
ソクミタ「とにかく、ロウソクは愛らしかったんだ。はじめてってことはないだろうに、ずっと顔を背けていて、素直じゃなかった。わたしを〇そうとしていたときは、あんなに挑発的だったのに。……ずっと弱々しくて……。それから……ロウソクは、……わたしは、そして……」
にいすい「ごめん!ちょ、ちょっと待って!一回ストップ!」
ソクミタ「ん?」
にいすい「思い出話の八割が下ネタなんだけど!?警察官と○人犯の……いや、別に……ひ、否定はしないけどさ!ずっとその話されると、ちょっとね?心の準備が追いつかないから……。」
話すのが楽しくて、夢中になっているソクミタは、にいすいの突っ込みをスルーして気にせず話し続ける。
ソクミタ「……それから、時間が経つにつれて、あいつもノッてきてな。その様子を見たら、わたしも更に……それから、それで……」
にいすい「……(無言)」
ソクミタ「おい、寝るな!人の話は最後まで聞いた方がいい。」
にいすい「兄さん……受け止めるって言ったけど、本当に困るよ。そういうこと、真面目な顔で言うの……!!!」
ソクミタ「〜で、……それで、……だ……という思いもあって。とにかく、いい夜だった。そういうこともあって……それで……だから、わたしは警察官をやめようと思うんだ。
今すぐではなく、世の中や人々が困らないように、年月をかけて少しずつ準備をしていくつもりだ。今のわたしの存在は、いつか風に溶かして……新しい人生を探してみようと思う。」
にいすい「えっ!?な、なんて!?も〜、重要なことをサラッと言うの、やめてよ!」
ソクミタ「……今も、あいつに会いたいんだ。この星には死後の世界がある。だが、わたしは不死身の存在だから……待っていても、永遠にあの場所へは行く機会はないだろう。
二度と会わない、会えない。そういう結末だ。この世の理に則って、そう決意したはずだった。
……それでも、それでも。あいつにもう一度会いたい。今さら会いに行っても……あいつは笑ってくれるだろうか。」
にいすいは、兄の横顔を見つめ、ふっと微笑んだ。
にいすい「……兄さん、ほんとに不器用だよね。不思議な力、いっぱいもってるのに♪︎」
彼は優しく肩を叩いて、少し遠くを見つめた。
にいすい「僕たち座敷童は現世の妖怪だし、死後の世界のことなんて、さっぱりわからないよ。どんな場所なのかも、見たことないし。聞いた事くらいはあるけどね。兄さんも……行ったこと、ないんだよね?」
ソクミタ「ない。この星には、この星の理(ことわり)がある。人には人の、生と死の循環とからくりがある。わたしは、それを壊してはいけないと思い続けてきた。わたしなら実際は越えられる境界だが……人として守りたかったんだ。」
にいすい「うん……。でも、行くとしても、きっとまだまだ先でしょ?僕も少し調べてみるよ。焦らなくていいと思う。ほら、兄さんって、思い立ったらすぐ行動するタイプでしょ?何かするときは、僕にもちゃんと相談してね?ぜったいだよ、約束!」
ソクミタ「……ああ。約束しよう。」
にいすいは、安心したように立ち上がり、遠くの空を見つめながら、ゆっくりと語りはじめた。
にいすい「……兄さんさ。警察を立て直して、ずっと戦い続けてきたよね。誰にもできないことに挑戦して、たくさんの人を救ってきた。あの頃より、ずっと平和になった。だから僕も、兄さんみたいな正義の味方とか、リーダーとか……そういう存在に憧れてるんだ。」
にいすいは、柔らかく笑って続ける。
にいすい「でもね……兄さんの力の源って、世界を救いたいとか、そんな大きな夢じゃなかったと思うんだ。
たった一人を心から愛してた……その気持ちこそが、兄さんを動かしてたんだと思う。
兄さんは、彼が残したパズルの欠片を、一つひとつ拾い集めてきたんだよね……絵は未完成かもしれない。それでも、兄さんはそれを彼に渡すために揃えてたんだと思うよ。」
にいすいは目を閉じ、少しだけ声を落とした。
にいすい「兄さんは、……禁じられた恋しちゃったなって思ってるんだよね。
……神様も、こんな風に人間を好きになってしまうんだなって……僕は恋愛経験まだないし……、兄さんを見てると、不思議な気持ちになるんだ。
兄さんは、どんどん人間に近づいていく。もっと、やわらかくなっていく……僕はそんな兄さんのことも好き。
だから、自分の気持ちに正直でいていいと思う。
どんな道を選んでも、兄さんなら大丈夫。」
ソクミタ「ありがとう。お前はいつも、まっすぐで頼もしいな。……話の続きをしてもいいか?」
にいすい「い、いいけど……。」
ソクミタ「その後、ふたりで風呂に入ったのだが、その時ロウソクが……」
にいすい「も〜、まだ下ネタ続くの!?」
もういいよ!また今度ね!と、にいすいは軽く笑って立ち上がった。
ソクミタは満足そうにその背中を見送り、静かに手を振った。
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永遠なんて、どこにもない。本物も、偽物も、答えも。すべては、変わり続けていく。そして万物は、やがて風に流され、溶けていく。
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ーー
【回想(ロウソクと別れてから数年後)】
磯の匂い。冷たい海風。波の音が、遠くの悲しみを運んでくる。
ソクミタは不死身の○人鬼「ゆうぎ」と「しんげつ」を追っていた。連日の報道は熱を帯びていたが、映し出されるのは「救いのない現実」ばかり。
……ふたりを追う、ソクミタと警察官の仲間たち。しんげつ(ゆらめき)が、ロウソクの実の息子だという情報を、ソクミタは掴んでいた。仲間をひとりも失いたくなかった。それでも彼を信じる者たちは、ソクミタの背中に続き、銃を握りしめていた。
ついに決着がついた。心配したにいすいが家を飛び出し、最終決戦の場……海岸にたどり着いたときには、もう遅かった。
倒れた仲間たち。砕けて、散乱した銃弾。
サイレンの音が、海の向こうで泣いている。
凍える嵐の中。
壊れたトンネルを抜けた先で……
にいすいはひとり、波打ち際で崩れ落ちる影を見つけた。
にいすい「兄さん!!!」
駆け寄り、抱きしめる。その体は冷たく、指先まで震えていた。
ソクミタ「……あぁ。
……みんな、死んでしまった。
どれほど祈っても、どれほど願っても……届かなかった。
自然の理を操ることも、魔法を支配することもできる。この身は不滅だというのに……どうして、ひとりも救えなかったんだ。」
壊れた声が、波に溶ける。
ソクミタ「この世は、なぜ……生を望む者から、それを奪っていくのだろう。
わたしは「神」だ。
……それなのに、誰の悲しみも終わらせられなかった。
ロウソクの前ではあんなにも自由になれたのに。
今のわたしは……ただの人間のままに、立ち尽くしているだけだ。
……あいつの前では、わたしは「神」にも「人間」にもなれたんだ。
永約ノ間にも招き入れた。あいつは人間なのに……わたしは何も恐れず、禁忌を破った。
でも、今は……「人間」としてしか動けなかった。」
その言葉に、にいすいが小さく震える。
ソクミタ「……にいすい。わたしは、ロウソクを失ってから、ずっと迷っていたんだ。
きっとあの時の勇気も、理由も、どこかに置いてきてしまったんだ。
それでも戦おうとした。戦わなければいけないと思った。
……だが、できなかった。神としての力を使うことが怖くなった……。
もう、誰かを救うために奇跡を使う資格なんて、ない気がして……。」
にいすいは、震えるその背を抱きしめる。
ソクミタ「ロウソクは、もうこの世にはいない……それなのに!!
……わたしはまだ戦っている。
どうして!?
何のために!?誰のために!!??
……そのことが、寂しくて、痛くて、たまらない。
こんなわたしに……手を合わせる意味なんかあるのか。
ああ、にいすい……わたしを止めてくれ。壊したっていい。
この世界を閉じ込めてしまいそうなんだ。
誰も悲しまない楽園に、すべてを……この手で……。」
にいすい「……大丈夫。兄さんは、そんなこと、できないよ。優しい神様だから。そうでしょ?」
波の音が、ふたりを包んだ。
にいすいは祈るように、何度もつぶやいた。
「だから、大丈夫……。」
ーーーー
ソクミタにとって、この星のすべても、宇宙のすべても、ただ一瞬の風のようなものだった。
風が吹き抜ければ、季節はめぐる。春も夏も秋も冬も、彼の前を通り過ぎていく。しかしソクミタはどの季節にも属さない……不変の存在だった。
……彼の中では、時間が止まっている。
あの日のラーメンの湯気も、ロウソクの笑い声も、永遠に消えないまま、胸の奥でくすぶり続けている。
……ロウソクと過ごした「永約ノ間」
あの切り離された不思議な場所こそが、ソクミタが本来いるべき場所だった。
あの時の彼は、神でもなく、人でもなく、ただ愛する誰かと生きていた存在だった。
今の彼は、本来の姿……この世を見守る観測者へと戻った。
しかしその瞳はもう、ただ一人の人間を見つめ続けている……。
風が吹くたび、彼は思う。
「この風の向こうに、ロウソクがいる気がする」と。
……不変の存在でありながら、たった一度の変化を愛したこと。
それが、ソクミタという神の、最も人間らしい罪だった。
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ーー
時が経ち……。
その日。にいすいは、マリリンのラーメン修行に付き合ったあと、胸騒ぎを覚えて、帰る前に御約束山へと足を向けた。
守護の風。優しい森の音。いつもと変わらないはずの景色。けれど、ソクミタの姿がない。どこにも、いない。
にいすい「……兄さん、ほんとに行っちゃったの?異世界(死後の世界)に……。」
足元に、白い封筒がひらりと落ちていた。
「にいすいへ。面白いことになったんだ。とにかく探さないでくれ。落ち着いたら連絡する ソクミタ」
にいすい「面白いことって!?落ち着いたらって……いつだよ、もう、心配ばっかりかけて……。」
そう言いながらも、口元には小さな笑みが浮かんでいた。
にいすい「……でも、兄さんらしいな。まっすぐで、不器用で……。」
春風が吹き抜ける。その風の向こうに、あたたかい気配があった。
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ーーー
ーー
ソクミタは「変わること」そのものに憧れたから、人の形をし、この世の一員になってみたいと考えた。
そして、ロウソクという人間に触れて、罪を知り、痛みを知り、そして愛を知った。
その愛は、神聖な自然の化身を、ひとりの人間へと変えていく……。
人の痛みに生かされて…‥ソクミタはこれからも、変わりゆく世界の中で、正義を求め、愛を探し続ける。
今日も風が吹く。
それは、誰かの涙をつつむ風。そして、誰かの幸せをいのる風。
ソクミタは、その風の中で微笑んでいた。
(…………ロウソク。いまもお前を愛してる。)
【ソクミタの影4 END】
オリジナルテーマソング【ソクミタの影】公開!本編をお読みいただいた後にお楽しみください!
キャラクターボイス(順不同)
成林ジン様(ソクミタ役)
長峰永地様(ロウソク役)
長峰永地様はロウソクのキャラクターソング「ナイトメアダンス」でロウソクボイスを担当してくださった声優さまです……歌っていただけて嬉しい!!成林ジン様はにいすいと同じ声優さんです、ソクミタも担当いただけて嬉しい……!!ありがとうございました!!!
最後までお読みいただきありがとうございました
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これからも応援よろしくお願いします!!





