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二週間後・休日の朝
ラーメン店(桜えびえびタコラーメン)のカウンター席
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マリリンが写真を撮り忘れたことを毎日悔しがっていたから、また二人で「桜えびえびタコラーメン」を食べに来た。いつも学校のお仕事で忙しいけど、夏休みとして、三連休をゲット……今日は連休初日の朝だから、ニンニクいっぱい食べても、皆に迷惑かけずにすむはず♪
カフェ風のエプロンをつけたオシャレな店員さんが、ラーメンをテーブルに置く。僕は紙エプロンをつけ、割り箸を二本取って、マリリンに一本渡す。セルフサービスのお水も二人分注いだ。
マリリンは目を輝かせながら割り箸を構え、蓮華を手にする。
マリリン「いただきます……ッ!」
その瞬間、僕は慌てて止めた。
にいすい「写真!!写真撮らないと!!」
マリリン「……あ、あぶねぇ!!また忘れるところだった!!ありがとう、にいすい!」
スマホを取り出し、夢中で写真を撮るマリリンを見て、僕は安心した。よかったね、マリリン♪
食べ終わって、そろそろ帰ろうかという頃。カウンターの向こうから、店主が「ちょっと、いい~?」と、声をかけてきた。
顔をあげて、店主を見ると……小柄で、ぱっちりした瞳、可愛らしい顔立ちの青年。けれど、額を伝う汗と引き締まった腕の筋肉、強いまなざしからは、ラーメン作りへの情熱がまっすぐ伝わってきた。
可愛い姿に、熱いラーメン魂。まさに「桜えびえびタコラーメン」と同じ、「見た目と味のギャップ」を持つ店主だった。
店主「お客様が教えてくれたんだ。君、マリリンさんでしょ?ラーメンのスペシャリストで座敷童の!本物だと思わなかった……僕、大ファンなんだ!マリリンさんが美味しいって言って、一週間以上、毎日通ってくれるなんて、僕、すっごく自信になった!ほんと、ありがとね。皆に自慢したい♪」
マリリン「ありがとう!(照れ)(ドヤァ)」
ん?僕は首をかしげる。
にいすい「毎日……?」
マリリンは気まずそうに目をそらした。
店主「マリリンさん、ラーメンの写真を撮りたいから、毎日来てくれてたんだ。話も盛り上がるし、もう常連みたい。でも、いつもすぐ食べちゃって、毎回写真を忘れちゃうんだ。それが可愛くて……つい言わずに、食べてるところを見守っちゃうんだよね~。」
マリリン「言うなって!前にニンニクの匂いプンプンで会議に出て、あれだけ反省したのに……やめるどころか、まだ食べて、さらに誤魔化して出席してるなんて……バレたら完全に反省してないって思われるだろ……。」
店主「あはは~☆」
にいすい「えっ、そうなの!?毎日このラーメン食べてるの!?でも、全然ニンニクの匂いしなかったけど……、どうやって誤魔化してたの!?」
マリリン「もう、隠す必要はねぇか。……この店主、「ニンニク食べた後に匂いを消す魔法」の使い手なんだ!」
そんな魔法があるなんて。考えもしなかった。僕は店主の顔をじっと見つめる。どうやって、あの匂いだけを消しているんだろう。
ニンニクの匂いだけ消すなんて、繊細な魔法技術が必要なはずだ。力を込めすぎれば体中の匂いがすべて消えて、まるで歩く消臭剤になってしまうだろうし。逆に変な匂いを一生植え付けてしまう危険だってあるし。
……この店主、きっとベテラン魔法使いだ。
実を言うと、僕は魔法が大好き。掃除も洗濯も、移動も……使える場面があれば、つい魔法を試してしまう。空を飛ぶのも好き。魔法をぶつけあってバトルするのも正直、好きだ。
もともと魔力を蓄えやすい体質で、それが僕の生まれ持った特技でもある。座敷童の中でも、自分はかなり上のほうだと自信を持っている。同じくらい自在に魔法を扱える相手なんて、めったに出会えない。
だからこそ、どんな魔法なのか、魔法使いなのか、……気になる。
でも、その前に。マリリンに言わないといけないことがある。僕はマリリンを連れてお店の隅に移動し、物陰で真剣に話しかけた。
にいすい「マリリンがラーメン好きな気持ちはわかる。でも、だめだよね。知らない人に魔法を使わせたら。……怖い目にあってたかも。」
マリリン「……!!、ご、ごめんなさい……確かに……。俺、自分の体質のことも忘れていた。」
マリリンは生まれつき魔力を蓄えられない体質で、魔法を使えない。無理に魔法を使えば、体が耐えきれず、体調を崩してしまう。もし匂いを消す魔法が誤作動して、魔力が体内に残ってしまったら……きっと辛い思いをすることになっていただろう。
にいすい「よろしいよろしい♪僕、マリリンのこと応援してるから。これからは、誤魔化さず、僕に相談してね。」
マリリン「ああ!そうする。ありがとう、にいすい。」
二人でカウンター席に戻る。店主と夢中でラーメンを語り合うマリリン。その横顔を眺めながら、僕は心から感心していた。
魔法をまったく使えない座敷童は、きっとマリリンだけ。それでも彼はその境遇に負けず、大好きなラーメンを見つけ、情熱を注いでいる。その真面目さと情熱、そして座敷童としての誇りは、多くの座敷童たちの憧れになっていた。僕はマリリンの素直で正直なところも大好きだ。
マリリン「そうだ!ラムネ(店主の名前)!!ニンニクの匂いを消す魔法、にいすいに教えてやってくれよ♪使えたら便利だろ。」
ラムネ(店主)「いいよ♪」
店主のラムネさんはメモ帳とボールペンを取り出し、さらさらと魔法陣を書いて僕に手渡した。僕はそれを、大切に受け取り、眺めてみる。
にいすい「いいの!?ありがとう!……うん、やっぱり想像通りだ。繊細な魔法だね。」
ラムネ「にいすいさんからは強い魔力を感じるし、練習すればきっとできるはず。これからも二人で気軽にウチのラーメンを食べに来てほしいし♪絶対、習得してよね。」
僕はメモ用紙をポケットにしまって、「まかせて♪」と指をひと振り。すると、指先から金色の光の粒が放たれ、僕とマリリンの周囲でキラキラと舞い、やがて空気に溶けていった。
教わったばかりの難しい魔法を軽々と成功させた僕に、ラムネさんは驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべた。
ラムネ「すごぉ〜☆マリリンさんはラーメンのスペシャリストで、にいすいさんは魔法のスペシャリストってわけか!君たち、最高!ああもう、大ファンになっちゃった!
そうだ♪良いこと思いついた。ねぇねぇ、これ見てほしい!えっと、ちょっとまっててね。」
テンションを上げたラムネさんは、後ろの棚に飾ってあった写真立てを手に取り、僕たちに見せてくれた。
そこに映っていたのは、この辺りでは見かけない、赤いネオンに包まれた街。可愛らしいおもちゃのようなデザインのビルが立ち並び、壮大な景色をつくり出している。
空には高く観覧車がそびえ、周囲には魔法の光の粒が漂っている。
まるで空気そのものがキラキラと輝いているようだった。
ラムネ「これは僕の故郷、「タコタコタコ星」の写真だよ♪青色の星よりも、もっともっと魔法が普及してるんだ。
このビルは全部、「レッドデビル☆カンパニー」っていう大企業のもの。僕はそこの「ラーメン部」に所属しているんだ。タコタコタコ星らしい、可愛くて元気いっぱいのラーメンを広めるために、この星にやってきたんだよ。
タコタコタコ星の名物はもちろん、桜えびえびタコラーメン!
映える!キュートな見た目なのに、食べればガツンと力強い味。可愛さと迫力。そのギャップこそがタコタコタコ星らしさ。そして、タコタコタコ星人の魅力なんだよね。
プリティなのに、魔法も腕力も、バトルも宇宙一って感じ!
タコタコタコ星には、この星じゃ味わえない魔法もいっぱいあるよ。ふたりなら、絶対楽しめるし……気づいたら夢中になっちゃうと思うな~♪」
興味深いなぁと思いながら、うんうんと聞いていたら……マリリンが勢いよく立ち上がった。
マリリン「行きてぇ~!!!だって、ラムネのラーメン、すっげぇ美味かったし、ギャップに心つかまれたんだ。本場の桜えびえびタコラーメン、タコタコタコ星産の素材で作ったやつ、食ってみてぇ~!!それにラーメン部って……なんだよそれ♪
見学してみたいし、話してみたい!
にいすい、俺、タコタコタコ星に行きたい!!!!」
にいすい「そ、それは無理だよ。……星から出るなんて、ねぇ……。」
ラムネ「にいすいさん、宇宙船持ってないの?魔法で加速すれば一泊二日で余裕だよ!……はい、大加速魔法陣、どうぞ♪」
マリリン「にいすい、連休だろ!チャンスだ、行こうぜ!!」
渡されたメモを見る……む、難しい。さっきの魔法どころじゃない。未知の魔力移動、初めての発動方法。
でも……僕なら、できるかもしれない。
にいすい「小さい宇宙船なら持ってるけど、飛行機の代わりにしか使ってないし……。こんなに遠い星に行ったことなんてないし……。マリリンの力になりたい気持ちはあるけど、タコタコタコ星に知り合いもいないし、泊まる場所も……。」
困って苦笑いしていると、ラムネが「そんなの大丈夫!」と僕の背中をバシバシ叩いた。
ラムネ「レッドデビル☆カンパニーの社長に連絡とってあげる!ラーメン部の厨房も見学できるようにするし、高級ホテルも押さえとくからさ。とにかく君たち、面白いから、社長に会わせたいんだ。絶対いい経験になるし、刺激になるから!」
まずい……。断る理由がなくなっていく……!
ラムネがすっと僕の耳元へ顔を寄せた。
ラムネ「魔法バトルもできるよ。ふふ♪」
かすかな吐息が耳をかすめ、低い声で囁く。
ラムネ「……まだ、本気でやったことないでしょ?
ねぇ、一線、超えてみたくない?
これはね、自分の実力を試してみる、絶好のチャンスなんだよ?
このチャンス逃したら……
後悔するよ?」

