ソクミタの影(全四話完結)小説作品

小説「ソクミタの影①」【全四話完結】

この記事は約26分で読めます。

悪人を愛することは、その罪まで許すことなのか。

正義と悪。加害者と被害者。愛することと、裁くこと。

その境界に立ち続けた二人の物語。

以下、全話まとめページ

トップページ
/* ================================================== 荒花ぬぬ:トップページ専用CSS このページ内の .nunu-home だけに適用されます。 色を変更するなら下の –accent…

あらすじ

他人の苦痛や恐怖を楽しみ、数々の罪を重ねてきた男・ロウソク。

そんな彼を追い続けるのは、強い正義感を持つ警察官・ソクミタ。

相容れるはずのない二人の出会いは、
やがてロウソクの中に、自分とはまったく異なる価値観を残していく。

しかし、ロウソクが歩んできた人生の裏には、
監禁、家族、復讐、歪んだ正義、
そして次の世代へ受け継がれていく傷があった。

悪人は変われるのか。

誰かを理解することと、許すことは同じなのか。

罪を犯した人間を愛することは、その罪を肯定することになるのか。

そして「正義」とは、誰かを切り捨てることなのか。

『星のはなびら1』二章を補完しながら、
『口裂けカレシ』『座敷童カレシ ILOVEラーメン』へと繋がっていく、
罪と正義と愛を描いた全四話の番外編です。

閲覧前に必ずご確認ください

『ソクミタの影』は、
犯罪・暴力・虐待・支配関係などを強く扱うダークな作品です。

一部の登場人物には、現実において重大な犯罪・加害行為にあたる言動があります。

また、加害者側の心理や人生についても長く描写しますが、
それらの行為を正当化・推奨・免罪することを目的とした作品ではありません。

「過去に傷ついていたこと」「誰かを愛していること」「反省や後悔があること」

によって、犯した罪そのものが消えるという描き方もしていません。

本作では、理解することと許すこと、愛することと肯定すること、救うことと裁くことを別のものとして描いています。

以下の内容が含まれます。

主な注意事項

・殺人、殺人未遂、暗殺
・流血、刺傷、銃撃、身体的暴力
・他者の苦痛や恐怖に快楽を感じる人物
・児童虐待、暴力的な教育
・子どもを犯罪や暗殺に利用する内容
・監禁、拘束、誘拐
・冤罪、社会的身分を奪う行為
・家庭内での暴力、心理的な支配
・配偶者や恋人への加害
・復讐、報復を目的とした殺人
・犯罪組織、裏社会
・警察や公的組織の腐敗、不正
・人体実験や人間を実験材料として扱う内容
・精神的虐待、心理操作
・自分自身を強く否定する発言
・「生まれてこなければよかった」「死んだ方がいい」などの思想
・自ら死を受け入れる、または死へ向かう行動
・死別、家族との離別
・世代をまたいで続く暴力やトラウマ
・倫理的に問題のある恋愛・執着
・性的な話題、性的な欲望に関する表現
・加害者と被害者、犯罪者と捜査側の人物の間に生まれる強い感情
・死後の世界、魂、死者との再会に関する描写

特にご注意いただきたいこと

本作には、重大な加害行為を行った人物が、その後も生き、誰かに愛され、別の人生を歩む描写があります。

ただし、それは
「愛されたから罪がなくなった」
「可哀想な過去があるから仕方がなかった」
という意味ではありません。

作中でも、罪を償うこと、裁かれること、
過去の行為を背負って生きることを重要な要素として扱っています。

また、「悪人だから傷つけてもよい」「多数を救うためなら一人を犠牲にしてもよい」
といった考え方についても、登場人物それぞれの立場から問い直します。

シリーズ作品との関係について

本作は『星のはなびら1』二章の番外編ですが、
単独の外伝としてだけでなく、荒花ぬぬ作品の複数シリーズを繋ぐ物語でもあります。

『星のはなびら1~永遠の恋と不死の星~(小説)』『口裂けカレシ(ゲーム)』
『座敷童カレシ ILOVEラーメン(ゲーム)』

などの人物・設定と深く関係しています。

特に『座敷童カレシ I LOVE ラーメン』とは時代が異なり、本作から五十年以上後の世界が描かれています。

明るく賑やかな現在へ至るまでに、その人物たちがどんな過去を持ち、何を失い、どのように生き続けてきたのか。

作品世界をより深く知りたい方に向けた物語です。

【星のはなびら1~永遠の恋と不死の星~(全九章完結)まとめ】ヤンデレ男子のダークファンタジー
愛が重すぎるヤンデレ男子たちが主役の、壮大なストーリー!生死を超え、時間を超え、宇宙へと広がる彼らの残酷で複雑な恋心の行く末は…?ぜひ、荒花ぬぬの世界を楽しんでください♪
ヤバい口裂け男と恋愛するゲーム「口裂けカレシ」
探偵の女の子「ハル」が調査するのは、怪異「口裂け男」愛が重めの、怪しい彼との恋が始める!?恋愛ホラーコメディゲーム!かっこいい男性は登場しません!
座敷童カレシILOVEラーメン【Steamにて体験版を配信中!】
/* ========================================================== 座敷童カレシ ILOVEラーメン:作品紹介ページ専用デザイン このページ内の .zsk-page のみに適用 文字・…

全四話について

本作は、数年間にわたり少しずつ制作した全四話の作品です。

各話で視点や時代が変わり、同じ出来事も別の人物から見ることで、意味が変化していきます。

一話だけでも一つの物語として読めますが、四話まで読むことで、ロウソクとソクミタ、そしてその周囲の人物たちの物語がひとつに繋がります。

かなり重い内容を含むため、苦手な要素がある場合や、気分がすぐれない時には、
無理をせず閲覧を控えてください。

本編【ソクミタの影】

1話ソクミタと俺

俺を追う影。どこまでも、どこまでも追う影。

日中は太陽が、夜中はパトカーの赤い光と錆びれた蛍光灯が俺を照らすから。

俺はその黒い形から逃れることはできないんだ。

その影に手を振れば、お前は手を振り返してくれた。

———————————

俺は人間の怯えた顔が好きだ。生死の狭間だけで見られる人間の痛ましい姿。食欲、睡眠欲、性欲…その姿はどんな欲よりも魅力的で、中毒性がある。奥底から心の渇きを、欲望を、掻き立ててくれる。その欲を一度口に含めば、特級の苦みと甘みに己が飲み込まれ、もう元には戻れなくなる。

悪人という言葉に収めるには綺麗すぎる。俺はもう戻れないところまで飲み込まれた獣だ。

…そう、思っている。

俺の名前は「ロウソク」。正体不明の連続切り裂き魔として夜を騒がせていたのに、どこかで尻尾を捕まれてしまった男さ。最悪だろ?国中に俺の顔がでかでかと載せられた張り紙がにぎやかに飾られているんだ。俺が元殺し屋として暗躍していた過去もバレているんだろうな。もう逃げる当てなんてない、俺の命運は尽きたのだろう。

中でも面倒な警察官がいる。俺を捕まえることに正義感を燃やしているしつこい男。名前を「ソクミタ」という…。他の警察官が諦めても負傷しても、最後の最後までたった一人で追いかけてくる。真面目な奴め…。

今も俺は追われている真っ最中さ。そいつの銃声からようやく逃れられ、物陰に身を隠している。今日こそお前の息の根を止めてやるってな…俺は愛用の銅色の包丁を握りしめた。

「くそ、ロウソク!!どこに隠れた!?」

ソクミタの声が近づいてくる…近づいてくる。…。そして、一瞬の出来事。俺はソクミタの前に飛び出し、その胸を切り裂いた。

「うぐッ…!?」

飛び散ったソクミタの血。ソクミタは苦痛に顔をゆがめ、右手で握りしめていた拳銃を落とした。深く切られた胸を抑え、膝をつく。

「…ァ、ギ…んぐ…ッ!!」

それでも、身をよじりながらも俺を睨みつけ、銃に手を伸ばそうとしている。

その表情は酷く扇情的で、俺を夢中にさせた。

「可愛らしい声をあげるじゃないか、ソクミタ。今まで散々俺を追ってくれたが、正義の味方も今日までだな。」

「うるさい…くたばれ!」

俺は拳銃を足で蹴り飛ばした。暗闇に消えたそれ。

腰を落として、ソクミタの髪を強引につかみ上げる。汗と涙にまみれたその表情を楽しんだ。

「なぁ、ソクミタ。俺はお前のことが好きなんだ。だってこんなに興奮するのは初めてなんだ、近くで顔を見られて嬉しいよ。お前の悲痛な表情は、どんな男、女よりも美しいな。ソクミタも俺が好きだろう?こんなに熱心に追いかけてきてくれていたんだ。わかっているぜ?ははは…。」

「…、ふざけた、ことを、いうなッ…わたしは手前(てめぇ)を絶対に許さない…!!。」

「諦めの悪いやつだな、そういうところが可愛らしいんだけどな。」

ソクミタの胸を蹴れば、ソクミタは簡単に地面へと転がった。血だまりが広がる。ソクミタの必死な呼吸音が、俺の耳の奥をくすぐる。

「可愛くおねだりしてみろよ、生かしてくださいってな!!俺を魅了させてみろ、そしたら…考えてやらないこともない。」

「はぁ、はぁ…、…。」

「まぁ、堅物そうなお前にはできねぇだろうがな!!」

俺は銅色の包丁を見せつけるように彼に向け、握りなおした。

———————————

・・・・俺を追う影・・・・

ためらいなく振り下ろす。

・・・・どこまでも、どこまでも追う影・・・・

愛おしい肉の感触。ゴボっと血を吐いたソクミタ。

・・・・俺はその黒い形から逃れることはできないんだ・・・・

2話 ソクミタの意識

俺はソクミタを愛していた。横たわる体…ただの肉の塊になっても、その歪んだ表情は格別だった。ソクミタの存在は俺の過去を塗り替えた。それほどに、美しかったんだ。綺麗だったんだ。

俺は思わずソクミタの冷えた血液を指につけた。そして、それを口に含んだ。生々しい、喉に焼き付くような鉄の味がした。ソクミタの味がした。

その時、激しい頭痛が俺を襲った。

「…!?!?!?い、ッ…。」

頭を抱え、その場にうずくまる。意識が混濁する…なにが、何が起きているんだ!?

視界が狭まっていく。痛い、痛い…。遠くなっていく。…。…

———————————

「お…ソク…ロウソ…。」

「起き…ロウソ…」

「起きろ!!ロウソク!!」

その声に俺は飛び起きた。辺りはもう明るくなっている。

「いってぇ…。」

キンキンする頭を抱えながら見回す…誰もいない、ようだ。

「返事をしろ、ロウソク!!!」

「うわぁッ!?」

どでかい声が頭いっぱいに響いた。まるでたたきつけられたみたいだった。何だこれ、て、テレパシー??どこかで聞いたことのある声だ。

これは…

ソクミタの声!?

「ソ、ソクミタ!?どういうことだ??どうしてソクミタの声がするんだ!?」

俺は動揺しながらも、その場から離れる。ここで大きな声を出せば誰かに見られるかもしれない…。物陰に隠れ、俺はソクミタらしき声に返事をする。

「ソクミタ…?俺の妄想か!?ついに俺は狂ったのか!?おい、どういう事だ!?」

「…うるさいな。わたしにもわからない。手前がわたしの血を舐めたことで、目が覚めたんだ。手前の脳内でな。それだけは確かだ。さつじん鬼に人格を乗っ取られるなんて最悪な気分だ。」

「嘘だろ…俺の中にソクミタの意識が移動してきたってか?」

「体を乗っ取って警察署に行ってやろうと、一晩中試していたが無駄な足掻きだった。わたしは任務に失敗して死んだんだ…意識だけ残されるだなんて屈辱でしかない。さっさと消してくれ。」

「いや、できねぇな。まったく…こんな不思議なことが起きるなんて…。」

「手前、楽しんでいるんじゃないだろうな。」

「楽しむに決まっているだろう。だってお前は俺の中で俺を見ていることしかできないってことだろう?。俺の悪行を一緒に楽しもうじゃないか、正義の味方さんよぉ!。俺達はマジの一心同体ってな!ははは。」

「黙れ、誰が手前と一心同体だって?意味を分かって言っているのか?」

「わかっているさ、俺達両思いだもんな。どうだ?俺の熱心な恋心を感じられるだろう?」

「手前の中ではな。狂気じみている…わたしには理解できない。」

鮮明に感じ取られるソクミタの人格。ソクミタの魂を奪ってしまったらしい俺はその事実に腹を抱えて笑った。ソクミタを俺の中で飼えるだなんて。表情を見られないのは残念だけれど…最高じゃないか。悪行を目の前にして何もできない自分を責め続けることしかできないソクミタを、煽り続けられるんだ。しつこい警察官を現実から消せた上に、その好きな男を手に入れられたんだ。こんなに面白いことがあるか?

「なぁソクミタ。俺は切り裂き魔を続けるぜ?お前を恐怖と後悔でビビらせてやるよ。安心しろ、いずれ気持ちよくなるさ。」

「ふん…醜いぞロウソク。悪の行く末は決まっているんだ、逃げ場なんてない。手前が終わる瞬間をこの目で見られるのなら、その方が快楽だな。」

「俺は簡単に捕まりはしないさ、ははは。あ~面白いことになった、どうすっかな。なんか食いにでも行くか?」

「ああ食いに行け食いに行け、そして捕まれ。」

「俺は追われてるけれど、眼鏡とマスクをしていればそう簡単にバレやしないんだな。ソクミタは何が食いたい?あ、これ、初デートじゃねぇか?」

「手前、面倒くさいな…。本当に…あぁ、最悪だ。」

———————————

…ラーメン店…

ラーメンをすすりながら俺は心の中で会話をする。

「ラーメンなら何味が好きだ?」

「うるさいな、手前何回それを聞いたら気が済むんだ…会話をする気はない。」

「ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?」

「うるさいな…。いらいらする…。」

「ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?」

「…。」

「答えろよ、くそが。一発殴ってやりたいな…これじゃ話にならねぇ。お前に手が出せないのが惜しい。ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?」

「…。」

「ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?」

「うるせぇな!!!」

「好きなラーメンの味を聞いているだけだろうが!。お前の好きなラーメンを頼んでやろうと思ったのに、全然応えねぇから、しょうゆ頼んじまっただろ!!正義の味方は恋人と会話もできねぇのか?」

「誰が恋人だ…。」

「ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?ソクミタ、ラーメンなら何味が好きだ?」

「念じるな!!塩!これで満足か?」

「ふーん、じゃあ塩ラーメンも頼んで食うか。」

「いらねぇ気遣いだな…。二杯も食うのか…。」

俺は愛想の悪そうな店員を呼んで、塩ラーメンを頼んだ。少し待つとラーメンが届けられる。ほかほかの湯気。大きな海苔と鳥のチャーシュー、白ネギ…スープまで飲み干したくなる良い匂い。美味そうだ。

「おいロウソク、金はきちんと払うんだろうな。」

「は?払うわけねぇだろ…うわ、うめぇ…。」

「ふざけるな、金を払わず店を出るだなんてありえない…。そうだ、ならこうしよう、手前が今回も今後もきちんと金を払うのなら、会話くらいはしてやってもいい。」

「タダ食いだけでソクミタを罪悪感で殴れるのは楽だな。…まぁいい、金ははらってやらぁ。」

空になった二つの器。俺は机に千円札を二枚投げ置いて席を立つ。

「嫌に素直だな…。」

「ソクミタと会話できる方が面白いからな。金払ったのなんて何か月ぶりだ?」

「ちっ…。」

「で、さっきの塩ラーメンの味はどうだったんだ?体を共有してるんだから、味も共有できてるだろ?そういや甘いものは好きか?久々にうまいものを食ったし、菓子でも買おうかと思ってな…和菓子か洋菓子ならどちらが好きだ?俺は洋菓子かな…和菓子はせんべいしか好きじゃねぇ。」

「めんどくせぇ…。」

3話 ソクミタの国

この小さな国は腐っている。俺のようなクズばかりが蔓延り、社会も秩序も崩壊している。潔白で真面目な警察官何てソクミタくらいだろう。

ここで生まれたものは皆、悪として生き悪として死ぬんだ。…そうでなきゃ、食いつぶされてしまうから。簡単に、身も心もころされてしまうから。

一度罪に汚れたら、外の世界から許されることはない。やがてその罪にも慣れていく。染まってしまえば二度と出られない悪人の檻。誰もが恐れて手を付けられないままに潜んでいる国。この国を俺達は「裏社会」と呼んでいる。

俺はソクミタが好きだというソーダ味のアイスクリームをジャリジャリ食べながら、ソクミタとの会話に浸っていた。はじめはうざそうにしていたソクミタだったけれど、会話をするといったのはソクミタの方だ…ソクミタは少しづつ会話に参加してくれるようになった。

正義感を振りかざしキレているソクミタも、痛みに叫び声をあげるソクミタも魅力的だったけれど…こういう「何気ない話をするソクミタ」は初めてだ。なんだか嬉しい。(可愛いとか言ったら怒られたけれれど。)

「ソクミタはどうしてこの国にいたんだ?しぬかもしれないのに。」

「…手前のようなやつを取り締まるためだ。この国を清らかに正す…それがわたしの夢だった。まだ、諦めてはいないが。はぁ、どうして神は手前のようなやつの悪行を見過ごすのだ…。」

「神の存在なんて信じているのか?」

「信じている。子どものころにみた夢…神がわたしに正義の心をくださったんだ。それからわたしはわたしと神に誓ったんだ。正しいとは何かを追求し続け生きることを。神はわたしから過ちを遠のけ、家族を守ってくれる。その誓いも全て、志半ばで途切れてしまったが。手前のせいでな。」

「知るか、俺は自分しか信じない。善も悪も、正義も俺が決める。この国は俺達悪人が築き上げたんだ。ソクミタ…神なんか、見えないものに頼っているから俺にやられてしまったんじゃねぇのか?」

「手前の方こそ、神に見捨てられた現実から目を背けて粋がっているだけではないのか?」

「違うな。全然違う…ありえない。だってよぉ、もしこの世に神がいるのなら

こんなどうしようもない俺なんて、存在していなかったはずだから。」

———————————

俺には女がいた。何年も何年も行動を共にしていたきれいな女。名前を「時芽(ときめき)」といった。本当の名前なのかどうかなんて知ったことではないけれど。彼女はこの国を知り尽くす情報屋をしていた。

彼女を一言であらわすなら、この国のボスだ。

出会いは…ろくでもなかったさ。俺の容姿に興味を持ったらしいときめきは、自分の情報網を手繰り、俺の正体を調べ上げた。そして俺にその情報を見せつけ「あたしのものになってくれなきゃ、この情報を売りさばいてやる。そしたらこの国にあんたの居場所はなくなるね。」なんて、脅してきたんだ。当時殺し屋をしていた俺はそいつのことを消してやろうかと思ったけれど…まんまと罠にはまったというわけだ。

俺は情報屋ときめきの手先になった。情報を売り買いする上で邪魔な奴を消したり、直接ヤる依頼を受け取って遂行したり。それでも居心地が良かったさ。金に困らなかったからじゃねぇ。この国の女王に…俺はすっかり惚れていた。双子の男の子が生まれた時も、俺は素直に喜んでは父親の顔をしていた。

その時は自分は善人なんだと思い込んでいた。家族を守るために俺は悪行に身を投じているのだと、自分を正当化していた。手のひらを血で汚し、その手で子供を撫でていた。

それでも無垢な笑顔を見るたびに、少しづつ自分が「悪人」であることに気が付いていく…。

俺は、誰かにとっての無垢な笑顔を、宝物を奪っているのだと嫌でも自覚させられたんだ。

俺はときめきに「もう殺しはしない」と告げた。消されるんじゃないか、そんなこと許されないんじゃないかと思った…けれど、ときめきは「そう、いいわよ。じゃあ情報の整理でも手伝ってもらおうかしら」だなんて、平然と言ったんだ。俺は拍子抜けた。

「あんたがやりたいことだと思ったから、やらせていただけ。飽きたのなら別のことをすればいい、仕事は山ほどある。家で子どもたちと遊びたいならそれでもいいわよ。ほら、「ゆらめき」ちゃんと「きらめき」ちゃんが遊んでほしそうにあんたのこと、見ているわ。」

「そうか…。」

家で子供たちの相手をする日々…はじめはただ癒されていた。けれど、俺はその感情が少しずつ、削り取られるように、形を変えていくことに気が付いていった。

俺のときめきや子どもたちへの愛情は本物なのか?

なにかが物足りない…何が足りないのだろう。

いつのまにかそんな疑問が浮かぶようになっていたんだ。

確かめたい。俺にとってときめきたちがかけがえのない存在なのか…確かめたい。

痛みを知りたい。

俺が奪ってきた命。無垢な笑顔を奪われた者たちはどれほどの痛みを感じたのだろう。痛みの大きさは愛情と比例するのだろうか。

俺の愛情の大きさを確かめたいと思った。

愛情が本物なのかどうか確かめたいと思った。

確かめたい。

確かめないと。

だって、だって。

物足りない。

寂しい。

肉の感触が恋しい…?

この寂しい気持ちは何だ?わからない。わからない。

俺はころしを正当化するためにこいつらを愛していたんじゃないかって…そんなふうに思ってしまうんだ。

芽生えた、殺意。

ある日、銅色の包丁を握って家に帰った。そこには誰もいなかった。俺の衝動に察していたときめきは俺の前からとっくに姿を消していた。

見捨てられた…?

俺は怒り狂った。テーブルに銅色の包丁を突き立て、頭をぐちゃぐちゃにして暴れた。結局俺はその後、怒りと衝動のままにときめきを追い詰め、この手にかけてしまったんだ。

その時感じた感情は、痛みでも、悲しみでも、喪失感でも、愛でもなく…

ただの快楽だった。

俺の歪んだ真の欲望が形を成して、証明された瞬間だった。

俺は人間の怯えた顔が好きだったんだ、そう気が付いた。

生死の狭間だけで見られる人間の痛ましいその姿。

食欲、睡眠欲、性欲…その姿はどんな欲よりも魅力的で、中毒性がある。奥底から、心の渇きを、欲望を、掻き立ててくれる。その欲を一度口に含めば、特級の苦みと甘みに己が飲み込まれ、もう元には戻れなくなる。

「悪人」という言葉に収めるには綺麗すぎる。俺はもう戻れないところまで飲み込まれた獣だ。

…そう、気が付いたんだ。

———————————

こんなどうしようもない俺なんて、存在していなかったはずだから…そんなことを口走ってしまった後、俺は忘れかけていた家族の存在を思い出してしまっていた。

「なるほどな…ロウソクには残酷な過去話があったのか。」

「ソクミタ!?お前、俺の記憶を…感情を読めるようになったのか!?くそが…。」

「手前が頭を抱えるほど濃密な記憶だったからこそ、こちらの意識にまで届いたんだ。わたしが見ようとしたわけではない。」

「なら忘れろ。過去は捨てたんだ。」

「忘れられるか。子どもたちはどうした?まさか。」

「…いや、子どもは…ヤれなかったんだ。あいつが俺に見つかる前にどこかに逃がしたんだろ…。面倒で、追う気にはなれなかった。はは、俺にも少しは愛情ってやつがあったのかな…なんてな。子どもなんてもう飽きた。」

俺はぶっきらぼうにそう言い、へらへら笑いながら路地裏を歩く。アイスの棒を適当に投げ捨てると、ソクミタがうるさくなったから仕方なく拾ってごみ箱に捨てた。ソクミタはイライラを募らせながら言葉を続ける。

「わたしのことを好きだのなんだの言っているのは何なんだ?恋人や愛情の意味を知らないのか?」

「どうしたソクミタ、可愛いこと言うじゃねぇか。俺に可愛がられたいのか?恋人だもんな。」

「はぁ、手前に好かれたいわけではない…当たり前だろ。気持ち悪い。」

「ツンツンするな、ソクミタのことは愛情たっぷり可愛がってやってるだろ、恋人だからな。」

「意味が分からない…。まぁ手前のことは何もわからないが。」

4話 ソクミタの正義

俺は自販機で炭酸飲料を買う。適当に座って缶を開ける。

「ははは、わからなくていいさ。俺は生きている意味もない人間だ。」

甘いジュースを口にする。

「ソクミタ…そっち側の人間とは違うんだよ、俺は。…ソクミタ?会話しろよ、約束だろ。」

「飽きれていただけだ。生きている意味もない人間?くだらないことを言うな。自分の魂を、存在意義をもっと自覚しろ。」

「何言ってるんだ、俺は奪ってきたんだよ…恨まれて当然、いないほうがいい人間だろ?家族も愛せず、守ろうともしなかった。」

「わたしは罪を自覚しているのなら、誠意をもって償えと言いたいんだ。奪われたものの感情を、正面から受け止めるんだ。それができないのは、手前が自分の魂を甘やかしているからだろう。全く…生きている意味がない人間などいない。手前は正々堂々と生きるべきだ…最悪の罪人として。罪を償うためにな。」

「…。知らねぇよ、鬱陶しい説教すんな。こじつけがましい。でも…生きるべき、だなんて言われたのは初めてだ。ははは、最悪の罪人…ねぇ。」

「わたしはわたしの正義の心をもってこの国を、手前のような孤独な悪人を、子どもたちを救いたい、それだけだ。過去が悲惨だからと言って同情等はしないし、手前を認めたわけでもない。」

「はいはい…ならどうすればいいっていうんだ?」

「は?」

「だから、俺がソクミタに認められるためにはどうすりゃいいんだって聞いてるんだろ。二度も言わせんなよ。」

「ロウソクこそ何を言っているんだ。わたしに認められたい?はぁ…手前な…。」

「俺は自分しか信じない。善も悪も、正義も俺が決める。だけど、お前の心は欲しい。そう思ったんだ…悪いか?。全部お前の言う通りにするから、その代わりに心をくれ。」

「一応聞くが、心とはなんだ。」

「両想いに決まってるだろ。俺に本物の愛情を教えてくれよ。」

「無茶を言うな…無茶すぎるだろ。いい加減にしろ。」

「なら別に、一人の人間としてみてもらえるだけでいい。」

「…。わたしは手前のことはとっくに、一人の人間として見ているが?手前のような狡くて横行な生き物は、人間しかいない。人間らしい、人間だ。」

「そうかよ。じゃあ、それでいい。」

しばらくお互い何も言わずに佇んでいた。俺は忘れていたジュースに口を付ける。炭酸はとっくに抜けていた。空を見上げると、いつの間にかオレンジ色が広がっていた。もうすぐ、また、夜が来る。

また、夜が。来る。

「安心しな、今日は人は切らねぇ。そういう気分じゃない。」

「ふん…悪行はわたしが許さない。」

「はいはい。」

飲み終わった缶を踏みつぶし、ポケットに入れる。紫色に陰っていく夕焼けを見て、ソクミタと初めて会った日を思い出す。

「俺、お前のこと本気で好きなんだ。だから殺したんだと思う。」

「わたしには理解できない感情だな。」

「初めてお前にしつこく追われた時、一目見て…。憧れたんだ。少しだけ。」

「憧れた?」

「だから確かめたくなった。俺にとってお前がかけがえのない存在なのか…確かめたくなったんだ。痛みの大きさは愛情と比例するのだろうか。俺の愛情が本物なのかどうか確かめたい。また、その衝動に駆られたんだ。

ときめき達を俺の心から消して…俺は、自分に嫌気がさしたんだ。本物の愛情も知らない孤独な自分が辛くなったんだ。だから…もうころしなんてやめようと思ったんだ。身を潜めて、衝動を抑え込んで、生きていたんだ。

でも結論はコレ(切り裂き魔)さ。結局俺はころしはやめても、人を傷つけることはやめられなかった。しかもまた、手を染めちまった。

俺は生まれながらに狂ってるんだ、とか言ったらお前は…ソクミタは、それは違うと、俺が自ら進んでしまった道なんだと言ってくれるのか?」

「ああ、言うさ。生まれながらに悪人…そんな言い訳、神が許さない。」

「…。」

「それで手前はわたしをヤって、何か確かめられたのか?」

「…。その結論はまだ出ていない。ここ(心の中)にお前がいるからだろうな…喪失感だとか痛みだとかは感じられねぇな。あれからずっと時が止まったような、そんな気分さ。」

「くだらない。だが…手前にも感情はあるのだな。正しくあろうとする感情が。」

「正しい?知るか、言っただろ、俺は自分しか信じない。善も悪も、正義も俺が決めるって。けれど俺の中では、お前は…俺よりは正しい方だと思う。」

「当たり前だろうが。」

夜道、俺は歩を進める。ある場所に向かうために。

「ロウソク、どこへ向かっている。まさか、人を襲うつもりではないだろうな!。」

「どうだろうな。」

「今日は切らないと言っていただろうが、わたしに認められたい云々はどうした!?」

「冗談だって、そんなカリカリすんなよ。」

「面白くない冗談は大嫌いだ。炭酸飲料もな。」

「俺と正反対だな…俺はアイスが嫌いだ、食べづらいからな。」

俺はとある場所に到着する。それは昨日ソクミタを刺した場所だ。そこにソクミタの体はない。

「どうしてまたここに来た…。ロウソク、まさか嫌がらせか?」

「お前は知る必要のないことだな。」

「何がしたいのかわからない。何もかもがわからない奴だな…。」

「それでいいさ。」

俺は胸元にしまっていた銅色の包丁を取り出す。自慢気に掲げて見せる。

「手前…。」

「今日は切らねぇよ。明日も、明後日も、…多分。」

「ならそれはしまっておくんだな…心臓に悪い。」

「はは、これを握ってねぇと夜は落ち着かねぇんだ。」

今夜は月明かりはない。古びた街頭だけが俺を照らしていた。

俺は、胸に手を当て、目を閉じて、ソクミタの意識に集中する。

集中する。

「ソクミタ、俺に好きって言ってみてくれ。」

「言うわけないだろう。…わたしは嘘は嫌いなんだ。」

「わかっている、それでも…お願い、お願いだ。」

「わかっている?わたしの何をわかっているというんだ…。手前に私がわかるはずないだろう。」

「それもわかっている。つまんねぇこというなよ。」

「…。そういやロウソク、手前、「俺がソクミタに認められるためには何すりゃいいんだ」って言っていたよな。「全部お前の言う通りにするから、その代わりに心をくれ」ともな。わたしはもう肉体を失ってしまった…、もうお前にも他の悪人にも手が届かない。だからわたしはせめて、わたしにできる最後の正義を振るおうと思う。」

「…。」

「自首しろ。そしたらわたしの、何もかもをくれてやる。」

「…大好きって言葉もくれるのか?」

「大好きくらい、いくらでも言ってやろう。聞き飽きるくらいにな。」

「…それで、十分だ。ふふ…本当に」

―大好き―

いくら話しかけても、もうソクミタの声はしなかった。

遠くにサイレンの音が聞こえた。

タッタッタッ

背後から一人の警官の足音が近づいてくる。

「動くな!!!!」

その声に俺はほくそ笑む。

銅色の包丁を握りしめたまま振り返れば、そこには、

厚く包帯を巻いたソクミタが銃を構えて立っていた。

5話 ソクミタの約束

…昨晩…

ソクミタの胸を蹴れば、ソクミタは簡単に地面へと転がった。血だまりが広がる。ソクミタの必死な呼吸音が、俺の耳の奥をくすぐる。

「可愛くおねだりしてみろよ、生かしてくださいってな!!俺を魅了させてみろ、そしたら…考えてやらないこともない。」

「はぁ、はぁ…、…。」

「まぁ、堅物そうなお前にはできねぇだろうがな!!」

俺は銅色の包丁を見せつけるように彼に向け、握りなおした。

ソクミタは歯を食いしばり、這いずる様に体を持ち上げた。

「何が…堅物だ。プライドが高い男に見えるか?……わたしにはそれよりも大切なものがある。手前を、諦めやしない…絶対に。手段など…選んでいられるか!」

ソクミタはそういうと、地面に額を押し付けて俺に頭を下げたんだ。

俺はその滑稽な姿に拍子抜けした。

「生かしてください、今日は見逃してください!!」

「気持ちわりぃ…くだらねぇ真似すんじゃねぇよ!!!」

「手前から言っておいて…グッ、くそぉ…。こんなところで、くたばるものかぁ…。わたしは、この国と、お前のような孤独な悪人を、子どもたちを…救うんだ!例え神に見捨てられても、わたしは…わたしの正義を諦めない!!!死んでも、諦めるものか!!!」

「…はは。はぁ…。ま、まぁいいだろう。犯罪者に土下座する、惨めなソクミタを見られたしな。今日のところは見逃してやるよ。」

「はぁ…はぁ…。」

「明日もこの場所で会おうぜ。まぁ、お前がその体で来られたら、の話だけどな。ほら、さっさと行けよ。」

ソクミタは必死の形相で起き上がり、胸元からあふれる血液をかばいながら去っていった。

俺は地面に落ちたソクミタの冷えた血液を指につけた。そして、それを口に含んだ。生々しい、喉に焼き付くような鉄の味がした。ソクミタの味がした。

罪は晴れない。俺の心も晴れない。けれど、俺のソクミタへの言いようもない「憧れ」と「正義感」だけは信じられる気がした。

俺は何をするのが正しいと思う?俺は何をすれば正されると思う?そんな答え、誰にも分りゃしねぇだろ。やり直しはきかないんだ…一度きりの人生だろ。

いや、俺をリセットしてやろうかとも思ったこともあったな。名前も顔も変えて、全部なかったことにして生まれ変わってやろうと思ったんだ。

だけどできなかった。

俺の記憶と、俺の中のソクミタがそれを許さなかったんだ。

———————————

俺はまた「俺の中のソクミタ」に聞く。俺の中の俺に聞く。

「心が痛いんだ、またソクミタと会えてうれしいのにさ。これは本物の愛情の印だと思うか?」「知るか。お前がそう思うならそうなんだろう…興味もないが。」「俺はどうすればいいと思う?」「わたしの意思は先ほど伝えただろう。馬鹿だからもう忘れたのか?」「まさか。」

「なら、お前がやりたいことをすればいい。」

全部妄想?わかってる、それでもいいんだ。この恋は俺に似合っている。

———————————

「動くな!!!!」

その声に俺はほくそ笑む。銅色の包丁を握りしめたまま振り返れば、そこには、厚く包帯を巻いたソクミタが銃を構えて立っていた。

「ソクミタ、今日も俺に会いに来てくれると思ったぜ。相変わらず一人か…他の奴らは買収でもされたのか?ははは。それにしてもよくその傷で立っていられるな、これが執念ってやつか?」

「うるさいな。喋るんじゃない、今すぐその包丁を地面に捨てて両手をあげろ!」

「今日のソクミタはちっとも可愛くないな。痛いもんな。また、痛めつけてやろうか?」

ソクミタは恐怖に一瞬肩をすぼめたが、また厳しい目つきで俺を睨め返した。

「まぁ俺に必死になるわけもわかるよ、俺はこの国の情報を山ほど持っているからな。捕まえたら大手柄ってやつか?俺の持つ情報が公にさらされたら、この国もしょぼくなるだろうな。」

「わたしが手柄のためだけに、お前を追いかけていると本気で思っているのか?わたしは…」

「わかってるって、はいはい。言う通りにしますよっと。」

俺は握っている包丁を見つめる。

これを捨てて、両手をあげろ、だぁ?ふざけるなよ、俺を何だと思ってるんだ。

正直、そう思う。

その瞬間また頭を駆け巡る、俺の中のソクミタの声。さっきから、うるさいんだ。心地いいほどに。

(奪われたものの感情を、正面から受け止めるんだ。それができないのは、手前が自分の魂を甘やかしているからだろう。)

(全く…生きている意味がない人間などいない。お前は正々堂々と生きるべきだ…最悪の罪人としてな。)

(生まれながらに悪人…そんな言い訳、神が許さない。)

(大好きくらい、いくらでも言ってやろう。聞き飽きるくらいにな。)

「ふふ…あはは、ははははははは!!!」

「ロウソク、何が面白い!?笑うな…撃つぞ。」

「ははは、はぁ。撃たないでくれって、俺が死んだら意味ねぇだろ?きっちり、捕まえなきゃ。

そんな顔すんなってほら、マジだからさ。」

俺は包丁を地面に捨ててみせた。カラン、と乾いた音が鳴った。

そっと呟く。自分に言い聞かせるように。

「俺、お前と約束したんだ。」

きっと俺はこのとき、最高に似合わない、優しい表情をしていたんじゃねぇかって思う。

…。

両手をあげて、ひらひらと振る。

ソクミタは驚いた表情をしていた。

ソクミタが手をあげ合図すると、後ろから大勢の銃を持った警察官やパトカーがやってきて俺はあっという間に囲まれた。手前一人だと思ったら、きっちり準備してきてるんじゃねぇか…。せっかく二人きりになれると思ったのによぉ。

ソクミタに強引に取り付けられた手錠は重たく感じたけれど、プレゼントの様にも思えた。

パトカーに乗るのは初めてだな…当たり前か。ソクミタはさいごに俺の背中に向けて「手前と何かを約束した覚えなどない…」と言った。

その言葉に振り返れば、見開いた瞳が見えた。こぶしを握り締めて、唇を震わせている。

酷く、ひどくきれいだと思った。

これが本物の愛情かどうかは、まだ、まだわからなかったけれど。もしかしたら、俺にはわからねぇことなのかもしれねぇけれど。お前の眼力は俺の心のどこかを、なにかを、動かしたんだよ。

ソクミタにしたらいきなり俺が自ら連行されて…わけわかんねぇだろうな。

そりゃそうだ。

約束何てしてねぇからな。

ははは、俺もわかんねぇよ。俺が何がしたいのか。

俺は狂っちまったのかもなぁ…。

でも自覚はしてるよ、全部俺の妄想、願望ってこと。

お前のこと、こういうやつだったらいいなって、適当に押し付けてるんだよ。

楽しかったさ、今日一日。けれど、結局、お前のことなんて何にも知らねぇままなんだよ。

でも、俺を捕まえたっていう手柄ぐらいはプレゼントできたか?

どうしようもない、一方的な感情。

どうしてか、視界がぼやけている…。

ふと思う。

もう二度と、会えないんだろうなって。

もう二度と、もう二度と。

この地ともお別れかってな。

ソクミタ

ソクミタ…

それでも、お前に俺の何かを残したくて。

ソクミタに俺を忘れないでいてほしくて。

なにか、こころを、のこしたくて。

のこしたくて

俺は

さいごに

掠れるような声で一言

「さようなら」と伝えたんだ。

その影に手を振れば、お前は手を振り返してくれた。

END

小説「ソクミタの影②」【全四話完結】
悪人を愛することは、その罪まで許すことなのか。正義と悪。加害者と被害者。愛することと、裁くこと。その境界に立ち続けた二人の物語。【一話はこちら】あらすじ他人の苦痛や恐怖を楽しみ、数々の罪を重ねてきた男・ロウソク。そんな彼を追い続けるのは、強…
↓【今の気持ちをポチッ】↓