【星のはなびら2~対決☆タコタコタコ星~】16話 もうすぐ最終回!

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少し前の、タコタコタコ星から少し離れた、宇宙での出来事

コック早乙女の宇宙船内

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ちわた「いやいやいや、ほめと、何言ってんの~??」

ほめと「だーかーらー!タコタコタコ星には帰らずに、宇宙の端っこを目指す気持ちで、最高速度で、できるだけ遠くに飛び続けてほしいってカチョロが言ってたんだよ!カチョロが迎えに来るまで!」

コック早乙女「ほめとさん……それは危険すぎます。カチョロさんは、なんのために、そのようなことをしてほしいと話していたのですか?」

ほめと「それは教えてくれなかった……。」

たんぽぽ「やだよぉ。僕、もう、お家に帰りたいよ……。」

モジ「僕も帰りたい。家族に心配かけたくないもん。」

ピピヨン「お店の修理もしたいし、明日は朝早くから頑張ることになるだろうから、私とモジ君と、ちえる店長だけでも降ろしてほしいな~。まちるちゃんも帰りたいよね?」

まちるは不安そうにうなずいた。

ちえる店長「もし怪我でもしてしまったら、ピピヨンとモジ君の家族になんて説明すればいいのか……流石に責任とれないな。カチョロさんのお願いだとしても……目的もわからない危険なことは、させられない。」

ちわた「多数決で決定、ほめとの負け。デスゲームも終わってたし、イフとかいうやつも逃げて行ったし、もう危険なことは起きないって!早く帰ろう!?」

ほめと「でも、でもでもでもでも~!!!

ああもう……仕方ないなぁ。じゃあ、オレ、ここで使っちゃうよ。こんなところで使いたくなかったけど!

使っちゃう!

「一生のお願い」っていうやつをね!」

ちわた「え~!?「一生のお願い」、使っちゃうのかよ!?ほめと……どうしても、どうしても、カチョロの言葉を信じたいんだな~!?」

コック早乙女「「一生のお願い」……それほどの願いなら、お断りするのが申し訳ない気分になりますねぇ。たんぽぽサマ、大丈夫ですか?」

たんぽぽ「大丈夫だよ。ほめと先輩……後悔したくないんだよね。僕も、カチョロさんのこと、信じてみるよ。」

ちえる店長「……タコタコタコ星から離れてほしいということは、タコタコタコ星でなにか、危険なことが起こるかもしれないと言うことか?………仕方ないなぁ、わかったよ。できるだけ星から離れて、身を守ることを優先しよう。モジ君、ピピヨン、家族のことは心配しないで。カチョロさんはタコタコタコ星に戻ったんだ。みんなの大切なものも、星も、守ってくれるはずだからね。」

モジ「う、うん……。」

ピピヨン「でも、怖いよ。理由も説明してもらえてないもん!」

ちえる店長「きっと大丈夫さ。ほめとさんとカチョロさんを信じて。私も頑張るから。」

コック早乙女が操縦席に移動し、レバーを引き、ボタンを押し、ハンドルを操る。

宇宙船はぐんぐんとスピードを上げていく。操縦席に取り付けられたモニターには、宇宙船前方、後方の様子が映し出されている。高性能な宇宙船……揺れはほとんどなく、快適な乗り心地だ。

皆、窓の外の暗闇を、不安そうに見つめている。それぞれの心の中では、不安と緊張がぐるぐるしている。

たんぽぽ「お腹すいたなぁ……。」

モジ「奥に冷蔵庫があったよ。食べ物も、ジュースも入ってた。持ってこようか?」

たんぽぽ「……ううん、いらない。」

そこへ、ほめとが冷蔵庫からかつ丼を抱えて戻ってきた。強引にたんぽぽの手に、かつ丼を押しつけて、にこっと笑う。

ほめと「遠慮せずに食べなよ、たんぽぽ。ほら、かつ丼!みんなで一緒に食べよう。モジさんも、まちるちゃんも。ね?」

たんぽぽ「……わかった、食べる。ありがとう、ほめと先輩。」

みんなでご飯を食べ始める。自然と会話が戻り、緊張がほぐれて、少しずつ笑顔も戻ってきた。

おにぎりを二つ持ったちわたが、操縦席のコック早乙女に声をかけた。おにぎりをひとつ差し出した。

ちわた「無理しないで。操縦、オレにもやらせてよ。」

コック早乙女「ありがとうございます。では、少し、休憩します…‥。」

ちわた「うん♪まかせて。」

食事を終えた後は、おもちゃ箱の中に会ったトランプやボードゲームをして遊んだ。気がつけば、みんなベッドで眠りはじめていた。

操縦席には、コック早乙女とほめとが残っている。皆の寝息が聞こえる中……二人は不安を紛らわせながら、静かに世間話を続けていた。

ほめと「ふぁ~(あくび)……改めて見ると、操縦席っていろんなボタンがあるんだなぁ。こんなの、オレじゃ全部覚えきれないよ。」

コック早乙女「そうですよね。ワタクシも飛行することで手一杯で、まだ知らない機能がたくさんあります。日々勉強中です。」

ほめとはパネルのボタンを眺めている。ひとつ、気になるボタンを見つけた。

ほめと「……なんか、怪しいボタンがあるけど?赤と黄色で「緊急用・秘密ボタン」って書いてあるやつ。」

コック早乙女「位置と色合いからして、恐らく緊急脱出ボタンか、自爆ボタンのどちらかかと。ですが、カチョロさんが設計した宇宙船ですから、爆発するなんてことはないと思います。緊急脱出用のボタンでしょう。」

ほめと「押したらカチョロが飛んできてくれるボタンかもね。」

その時!!

操縦席に、バイオリンに似た音色が響いた。

優雅なメロディだが、それは警告を知らせる通知音だった。モニターに「気を付けて。外に出ないで。」と表示される。

モニターのひとつが、自動で切り替わる。宇宙船の後方カメラの映像。

怪しい光が見えた。小さな点のようだったが少しずつ少しずつ大きくなっていく。

近付いてくる!距離を詰めてきている!

コック早乙女「スピードを上げます!!揺れますよ!!」

ほめと「皆、起きろ~!!敵が来ちゃったかもしれない~!!」

ほめとの大きな声。大きく揺れ始める宇宙船。

みんな飛び起きた。

ほめと「外に出ないでって!モニターに表示されてるから、出るのは禁止!」

ちわた「ほんとだ、よくわかんない光が近付いて来てる……。謎の宇宙船に追いかけられてるんだ!ああもう、どうすんの!? 本当に大丈夫なんだよな!?」

ちわたは、不安げにまちるをぎゅっと抱きしめた。

ちえる店長「ね、ねぇ!別のモニターにも光が映ってる!こっちは宇宙船の前方カメラじゃない!?」

ピピヨン「ってことは、後ろからだけじゃなくて、前からも来てるってこと!?」

コック早乙女「急旋回します!皆サマ、何かに捕まって!!」

ガタンッ!!!

皆、家具や手すりにしがみついた。宇宙船が大きく揺れ、緊張が走る。

そのとき、顔を上げたモジが、震える声で叫んだ。

モジ「モ、モニターを見て!全部のモニターに光が映ってる!!どんどん増えてる!……十、二十……もう数えきれない……完全に、囲まれちゃったんだよ!」

このままだとぶつかってしまうかもしれない、敵との距離が縮んでしまうかもしれない…‥コック早乙女は仕方なく、宇宙船を停止させた。

そして、クラクションを繰り返し鳴らしはじめた。(警告なのか、助けを求めているのか、目的は誰にもわからなかった。)

プップー!プップー!プップー!

プップー!プップー!プップー!

そして小さくつぶやいた。

コック早乙女「ん〜困りましたね。」

百人近い絶望のイフたちが、それぞれ宇宙船を操縦しながら、ほめとたちの宇宙船を、完全に取り囲んでいた。

その時、ビームが一斉に放たれた。

何発も何発も命中しているはずだが、宇宙船は傷ひとつつかない。揺れることもなかった。

ビームは、直撃する瞬間、光の粒に変わって、宇宙空間に溶けていく。体当たりを仕掛けてきた宇宙船もあった……しかし、幻のように、すり抜けてしまう。

カチョロの魔法が宿る、全ての攻撃を無効化する特別な宇宙船の力……!!!

絶望のイフたちの焦りが、じわじわと宇宙に広がっていく。絶望のイフは、懐から魔法の手鏡を取り出し、誰かに連絡し始めた。

ほめと「さすがカチョロ!ここにいれば安全なんだ。早く逃げていかないかなぁ。」

ちわた「それにしても、どうしてオレたち、狙われてるんだ?」

ほめと「わかんない……。」

冷たい手が背後から伸び、ほめとの首を掴んだ。強引に引き寄せられ、耳元に、銃口の冷たさを感じた。

ほめと「ひぃ~~~ッ!!!!」

さやらん「動くな♪」

現れたのは、魔法のホログラムによって作られた「幻影のさやらん」…… まるで本物のような存在感で、にっこりと微笑みながら、立っていた。

銃を構えたまま、恐怖に凍りつく皆の顔を見つめていく……ひとりずつ、ゆっくりと。

ちわた「ほ…‥ほめと!!やめろ、ほめとを解放しろ!!頼むから、お願い!!」

コック早乙女「こんなことして、な、何が望みなのですか!?」

たんぽぽ「ほめと先輩、逃げて!!!」

ほめと「お前なんか……お前なんか……怖くないもんね!!」

ほめとはさやらんに一瞬だけ体の動きを止める魔法を使った。そして、さやらんの腕にガブッと嚙みついた。転がるように、必死に距離をとり、ちわたたちの元へ駆け戻る。振り返ると……さやらんは不気味に微笑んだままだった。怖がるほめとたちを見て、楽しんでいる様子だった。

さやらん「僕はさやらん。カチョ―ロチロムの、古くからの友達さ♪

何が望みか?別に、君たちが欲しいわけじゃないよ。君たちは不運だった、それだけ。

カチョーロチロムも、僕がこんな風に直々にやってくるだなんて、想像していなかったのかな。君たちの存在は、僕からしてみれば、からすやさくらよりも、使い道がある、貴重な存在なのにね。

隠し通せるわけも、守り通せるわけも、ないよね♪」

天井……いや、空間そのものがひび割れた。

ガリガリと音を立てながら、大きな裂け目が開いていく。

そこから現れたのは、大きくて真っ黒な手。

その手はすっと伸びてきて、ほめとをがっしりと掴み取った。

動く間も、声を上げる間もなく、そのまま裂け目の中……宇宙の深層へと引きずり込まれて‥…裂け目は、何事もなかったかのように、消えてしまった。

たんぽぽ「ほめと先輩~ッ!!!」

さやらん「返してほしい?試してみる?じゃあ、僕と戦ってみたい人〜?♪」

ちわた「無理ムリ、絶対無理!!ほめとは返してほしいけど、絶対勝てないし!!ほめとのことは、カチョロにまかせよう、とにかくオレたち、ここから逃げなきゃ!!」

モジ「逃げるって……ど、どうやって!?どこに!?」

ピピヨン「宇宙に飛び込むなんて、怖くてできないよ!」

ちえる店長「なんとか、見逃してもらえないかな……。」

気配を消して、ゆっくり、ゆっくりと操縦席に移動するコック早乙女……手が届いた!

「緊急用・秘密ボタン」ポチッ!!

カチョロの宇宙船が、深海の宇宙から姿を消した。

別の場所に転送されたのだ。

さやらん「……なっ!?そんな機能、付いてるの!?」

イラついたように肩をすくめる。

さやらん「ああもう……追いかけるのは……しなくていいか。流石にめんどくさいな。でも、生かしはしないよ。僕からは逃げられない。遠距離魔法を、舐めないでほしいね。

カチョ―ロチロムも深海の宇宙も、この手の中。

何度でも、何度でも繰り返すつもりだから。このセカイの全てが崩壊し、星のはなびらになるまで。」

ふふふ……あはは……アハハ……。……はぁ。

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モジはハッと目覚めた。

大きく揺れて、ぐるぐる回った宇宙船……見回すと、頭をぶつけて気絶している仲間たちの姿が見えた。自分自身も体中が痛かった。

モジ「み、みんな‥‥起きて!!」

誰も目を覚まさない。起きているのは、モジだけ。運よく目覚めたのだ。

操縦席にいるコック早乙女も、すやすやと眠ってしまっている。宇宙船は、重力の流れに身を任せ、ゆっくりと傾いていく。

モジはなんとか起き上がり、操縦席へと駆け出した。

モニターには、「秘密機能作動中・直ぐに迎えに行くからね。絶対に外に出ないで。待っていてね。」と表示されている。カチョロが予め表示されるように設定していたメッセージだ。しかし、その直後、モニターが乱れて……

「迎えは来ない。」

と表示された。

隣のモニターには「宇宙船の魔法機能は、僕が停止しておいたよ♪だから、秘密の機能が作動していることも、君たちが助けを求めている声も、カチョ―ロチロムには届かない。」と表示されている。

宇宙船は、どんどん傾いていく。小さな家具やおもちゃが転がっていく。

モジ「でも、ここで待っていれば……いつかは助けに来てくれるってことだよね?」

しかし、胸騒ぎがして、モジは外の様子を確認するために、窓の方へと駆け寄った。

モジ「な、なにこれ……!!!」

光と闇が渦巻く、カラフルで眩しい景色が広がっていた。ここが時空のトンネルであることなど、モジには知る由もなかった。

強大な重力が吹き荒れ、宇宙船をゆっくりと、しかし確実に、闇の向こう側へと引き込もうとしていた。魔法が届かない宇宙船は、カチョロの願いをすり抜けて、少しずつ、流されていく。

行き先のわからない時空のトンネルまで追いかけて来られる敵なんて、滅多に存在しない。だからこそカチョロは、皆を守るための最終手段として、一時的に宇宙船を時空のトンネルに転送する機能を搭載した。時空の使者のカチョロなら、すぐに、皆のもとへ迎えに行けるはずだった。

はずだったのに。

(ハンドルを握って。操縦しなきゃ。)

モジの心の声。

モジは勇気を出して、ハンドルを握った。

(宇宙船の操縦は、ゲームでならやったことあるし。傾かないようにするくらい、僕にもできるはず。)

しかし、ハンドルは重く、動かすことは難しかった。時空のトンネルの中で、故障した宇宙船を操縦するのは、……簡単な事ではない。

(これ以上傾いたら、立っていられなくなるよ……。ここ、どこなんだろう。)

モニターに目を向けると、闇の向こう側が映っていた。宇宙船は、その暗闇の方へ……少しずつ、少しずつ、吸い寄せられるように進んでいる。

その闇の中に見えた……恐ろしい何か

充血した、ぎょろぎょろとした大きな目。

裂けているような真っ赤な口。

無数に蠢く、腕。腕。腕。

異形の怪物が 闇の奥で、モジを待ち構えていた。

一瞬にして膨らんだ恐怖……モジは、両手で顔を覆い、座り込んだ。力を入れても、抜いても、体の震えをおさえることができない。

(誰か、助けて……)

苦しくなる呼吸。叫びだしたくなる、衝動。

(帰りたい、帰らなきゃ‥‥‥)

(ハンドルを握らなきゃ…‥)

(そうですよ)

(さぁ、ハンドルを握りましょう。)

(モジさんになら、できるはずです。)

モジは縋りつくようにハンドルを握り、必死に動かそうとした。

涙の味が口の中に広がる。

(Uターンできれば、元の宇宙に帰れるかな?)

(やってみましょう。……とはいえ、モジさんは運動不足で非力ですからね。魔法も使えませんし。その腕力でハンドルが動かせるのかどうか……正直、かなり怪しいところです。)

(そんなこと、わかってるよ!それでも、僕がやるしかないんだ!だって皆、気を失ってるんだもん!)

全身を動かして、体重をかけて、ハンドルを動かそうとする……全力で、全力で。

少しずつ、宇宙船が、向きを変えていく。

(モジさん、その調子ですよ。そのまま力を入れ続ければ、Uターンできそうですね。流石、わたくしの大切な友人です。)

しかし、疲れて、息が上がっていく。転びそうになって、手の甲を擦りむいてしまった。

痛くて、力が入らなくなっていく。

(無理だ…あと少しなのに!あと少しで、帰れるのに!!)

(まさか、ここで諦めるなんて……言いませんよね?)

(諦めないよ、だから手伝って!……ショドウ!!)

(仕方ありませんね。ああもう、そんなに泣かないで……わたくしはこの状況、意外と、楽しめていますよ。)

モジの手の上にもう一つの手が重なった。その手はあたたかく、でもしっかりと力強い。

二人分の想いと力が重なったその瞬間、宇宙船がゆっくりと動き出した。

方向転換し、トンネルを突き抜けて……

ついに、時空のトンネルを脱出した。

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ちえる店長「モジ君!!お願い、目を覚まして、モジ君!!!」

ピピヨン「モジ君!!モジ君!!」

体を揺さぶられて、モジは目を覚ました。

モジ「ぅう……。」

おでこには、濡れたタオルが乗せられており、じんわりと冷たい。

ちえる店長「よかった……目を覚ました!!」

ピピヨン「みんな〜!モジ君、大丈夫だったよ!」

ちわたとまちる、たんぽぽ、コック早乙女が、ほっとした様子でやってきた。

ちわた「モジさん…‥よかったぁ、マジでよかったぁ。頭ぶつけて気を失ってるところを見た時は、どうなることかと思った……。三途の川、渡っちゃったのかと思って、焦った~!」

モジはゆっくりと体を起こした。まちるが心配そうに、モジの背中をよしよしと撫でた。

モジ「こ、ここは……?もう、大丈夫なの?」

コック早乙女「残念ながら、まだ宇宙船の中です。全機能が停止してしまって……ぷかぷかと浮かんでいるだけの箱、と言ったところでしょうか。モニターもハンドルも、壊れていますし、今どこにいるのかさえ不明。ほめとさんも、連れ去られてしまったままで……。でも、今は、安全です。もう、大丈夫ですよ。」

たんぽぽ「安心してね。きっとカチョロさんが迎えに来てくれるし、ほめと先輩も助けられるよ。」

モジ「夢だったのかな‥‥‥。」

ふと手の甲を見ると、

擦りむいた傷跡に、絆創膏が貼られていた。