― ― ― ―
青色の不死の星
お昼ごろ
― ― ― ―
……手紙を受け取り、からすはひとり、待ち合わせ場所へと向かっていた。
現世の、少しにぎやかな喫茶店。店の奥、窓際のテーブル席には、すでにひとりの青年が座っていた。
机の上には読みかけの本と、氷が溶けかけたアイスコーヒー。青年はページをめくりながら、からすの到着を待っていたようだった。
からす「……あなたが、この手紙をくれた、にいすいさん?」
静かに問いかけると、青年は本を閉じ、やわらかく微笑む。
にいすい「うん、そうだよ♪」
うながされ、向かいの席へと腰を下ろす。中性的で整った顔立ち。金色の瞳がやさしく光っている。ぴょこんと跳ねたアホ毛が揺れていて、頭には葉っぱのような髪飾り…‥いや、もしかして本当に頭から生えているのかもしれない。不思議な人物だ。
にいすい「僕は、にいすい。よろしくね、からすさん。」
からす「ああ、よろしく。」
にいすい「ごめんね。忙しいのに、突然呼び出しちゃって。」
からす「いや、気にしないでくれ。」
にいすいは落ち着いた手つきでメニューを開き、緊張しているからすにそっと差し出した。
にいすい「何食べる?遠慮せずにね。ここの喫茶店は、ナポリタンが特に美味しいんだ。それとね、パインソーダ。バニラアイスとチェリーがのってて、見た目もすごく可愛いよ。」
からす「……では、そのパインソーダにしようかな。」
にいすい「僕もそうするよ。えっと……すみません、注文いいですか?」
にいすいが店員にオーダーを伝えている間、からすは、手紙のことを思い出していた。
届いたのは、真っ白な封筒。
さらさらとした繊細な文字で、丁寧に綴られていた。
「君に、話したいことがあるんだ。
この星のこれからのこと。僕たちがこの星のためにできること。
未来のことを。」
その文面は、不思議と心の奥にまっすぐ届いてきて、ずっと気になっていた。
からす(この星の未来、か。)
美味しそうなパインソーダが運ばれてきて、からすのサファイアブルーの瞳がキラキラ輝く。にいすいは、よろしいよろしい♪とつぶやき、からすのワクワクした表情を見つめている。
にいすいは、ゆっくりと……言葉を選びながら話し始めた。
にいすい「からすさんと同じように、僕たち妖怪にも、不思議な力があるんだ。
この星の歴史とともに受け継がれてきた、守護の力がね。
……でも、僕の仲間たちは、星の化身に対してずっと不信感を抱いている。
長寿な種族だから、500年前のあの出来事とか、いろいろ……今も鮮明に覚えている仲間も多いんだ。」
にいすいは穏やかな声のまま、真剣な眼差しを向ける。
深海の力が、にいすいの言葉と心に嘘はないと……彼は本物の妖怪だと察している。
にいすい「僕自身はその頃まだ生まれていなかったけど、さくらさんとからすさんの話は、ずっと聞かされて育った……彼らは恐ろしい存在だったと。だからこそ、身近に感じていた。
……でも、いくら過去に誤解や裏切りがあったとしても、この星や宇宙が危機に瀕しているときに、信用できないって理由で手を貸さないのは、誰のためにもならない。
だから、僕は、からすさんとさくらさんを星の管理人として認めたい。仲間に、そう伝えたい。手を組んで、星を管理したいんだ。」
その言葉に、からすは少し黙って……静かに口を開いた。
からす「さくら君、そしてわたしの過去の行いは……確かに、ほめられたものではない。それでも、わたしたちは今までも、これからも星の管理人だ。……たとえ誰にも認められなくても。」
にいすいは頷き、少しだけ苦笑いした。
にいすい「……ああ、なんか、偉そうに聞こえたらごめん。緊張して、しっかりしなきゃって思ってたら、力んじゃって。」
からすは、考えるように腕を組み、少し唸った。
からす「……あなたたちのこと、正直まだ全然わからない。具体的に、星の管理って、何をしたいんだ?」
にいすいの表情がまた引き締まる。
にいすい「現世を、僕たちに任せてほしい。
天国や地獄のことを、僕たちは異世界って呼んでいるんだけど……そこは広大で、魂も増え続けてるし、正直、今のからすさんたちは、もう手いっぱいだと思う。
そして現世は、ほとんど放置されているのが現状だよね。
だから、そこを僕たちが引き受けたい。対立するんじゃなくて、一緒にチームを組むようなかたちで。ね?」
その声はやわらかく穏やか。しかし、言葉の奥には揺るがぬ意志があった。
からすは考え込むように、パインソーダに視線を落とした。アイスを、スプーンですくって、ひとくち。
からす「うーん……難しい話は、あんまり得意じゃないんだよなぁ。帰ったら仲間に話してみる。相談して、考えよう。……今日はそれで、いいか?」
にいすい「ありがとう♪」
にいすいは微笑んで、こくりと頷いた。
もぐもぐ……からすのスプーンは止まらない。
からす「……ん!? このパインソーダとアイス、おいしいな!」
目を見開いて、感動してる様子。
にいすい「でしょ? ナポリタンもオススメだよ♪ 遠慮せず食べてみたら?」
優しくすすめるにいすい。その表情には、安心と期待が混じっている。
― ― ― ―
そして年月は、静かに流れていく。
10年……
想像もできなかった幸せと、数えきれない困難を超えて。
思い出と経験が積み重なっていく。
20年……
人生も常識も、少しずつ色を変えていく。
30年……
時代は静かに、確かに、移ろっていく。
40年……50年……
愛する人を。帰る場所を。背負った使命を。
何度も、確かめて。
そっと、大切に。
大切に、大切に、抱きしめる。
この想いは不死の風。
すべてが過ぎ去っても、きっとまた会える。1000年先も息をし続ける。
……そして、星は今日もまわり続けている。
どこまでも、どこまでも、変わらずに。
優しい祈りを乗せて。
― ― ― ―
星のはなびら~対決☆タコタコタコ星~
END
― ― ― ―