【星のはなびら2~対決☆タコタコタコ星~】18話(最終話)

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三か月後

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建物も、魔法も、人々もそのままに、変わらない日常が戻ってきた。宇宙がほろびかけたこともあったけど、もう大丈夫……皆、そんな雰囲気だ。

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タコタコタコ星

レッドデビル☆カンパニー:タコタコタコ星管理本部

社長・イカパチ

常務取締役・タコダイオウ

社員・ちわた タコパチ

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イカパチは、レッドデビル☆カンパニーの社長室で、忙しく仕事をこなしていた。

机には、魔導書と医学書が山のように積まれている。

宙に浮かぶモニターを操作しながら、キーボードを叩き、さらに羽ペンで書類にもサラサラと文字を書き込んでいく。

強くて優しい天才魔法使い。イカパチは、医療と回復魔法の研究を進めながら、レッドデビル☆カンパニーの仕事にも全力で取り組んでいた。

イカパチ「回復魔法だけじゃ足りないんだよね。魔法じゃ治せないことも、世の中にはたくさんある。

だからこそ体を強くしたり、医療そのものを進化させることも、大事なんだ。」

そう言って、イカパチは視線をタコダイオウに向けた。タコダイオウの隣には、タコパチがいる。

イカパチ「というわけで、タコダイオウ。今日は君の機体を、この星とこの星、そしてこの星へ派遣するよ。現地調査と情報収集、営業活動もお願いね。」

イカパチがモニターに表示された宇宙地図を指さして説明する。

タコダイオウ「おまかせください♪もっと仕事があればいいのに、もっともっと働きたいですね~♪☆」

イカパチ「お兄ちゃんはちわたと一緒に、この星に行ってね。しっかりサポート、お願いね。」

タコパチ「まかせて♪……ちわた、そろそろ出発するよ!宇宙船の発進準備は出来た?」

ちわた「準備できたよ。初めての出張だから緊張する~!」

大きな掘削機を背負ったちわたが、社長室に顔を出す。手に持っているかばんには、まちるが作ったお弁当が入っている。

ちわた「よーし、がんばるぞ!♪タコパチさん、よろしくお願いします!」

タコパチ「よろしくね!」

タコパチはちわたの頭をポンポン撫でた。

ちわたとタコパチ、そしてタコダイオウを見送ったあと、イカパチは「ふぅっ♪」と、小さく息を吐いた。

気分転換にと立ち上がり、外に出る。

すっきりとした爽やかさ。……深呼吸。そのまま、少し歩いて、オシャレなカフェへ向かった。

カウンターの奥では、ミニキスが忙しそうに働いている。その肩にちょこんと乗っているのは、フィカキスだ。

イカパチ「お疲れ、ミニキス君。フィカキス君。枝豆とたまご豆腐のスムージーをお願い♪おすすめのトッピングってある?」

ミニキス「あ!イカパチさん、お疲れ~♪せやなぁ、タコパチはタコさんウインナーが美味しい言うてたで。」

フィカキス「オレは刻み海苔推しやな。」

イカパチ「じゃあ、ウインナーと海苔で決まり♪」

会計をすませると、ふたりは手際よくスムージー作りを始める。

ミニキス「応援してるで~。外のベンチ、今ちょうど空いてるから、ゆっくりしていき。」

イカパチ「ありがと♪」

できたてのスムージーを受け取り、イカパチはカフェの外へ……ベンチに腰を下ろして、ストローにそっと口をつけた。だしの効いた風味。とっても美味しい。

イカパチは、バッグから魔法の手鏡を取り出す。

ふわりと光が広がり、空間を超え、魔法通信が、つながっていく。

イカパチ「もしもし♪ クロサキ君、調子はどう?」

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レッドデビル☆カンパニー:金魚八管理本部

リーダー・クロサキ

秘書・ユニタス

幹部・ふうが

幹部・かえるたち

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コメットがいた部屋の鍵は開いていて、中は空っぽだった。しかし、金魚八がいた宇宙の住民たちにも、変わらない日常が戻ってきていた。帰ってきた金魚八の組織のメンバーたちも、変わらず金魚八で働いている。

金魚八・本部

クロサキは、レッドデビル☆カンパニーの一員、そして金魚八のリーダーとして働いている。帰ってきた仲間たちと一緒に、日々の業務に取り組んでいた。

イフクーンや、かつて金魚八が滅ぼした宇宙・星々の復興。宇宙全体のトラブル仲介や、星々の平和維持、セカイ規模の魔法技術の開発……。

クロサキのユニークな仕事ぶりは、星々で生配信され、今や人気番組として話題になっている。かえるたちが製作している、キュートなかえるグッズの売れ行きも好調だ。

そのすべてが、レッドデビル☆カンパニーの利益へとつながっていた。

クロサキ「さやらん、そろそろ昼休憩にしようぜ。

今日は絶対、タコタコタコ星に定時で帰りたいんだよ!

だらだら仕事するんじゃなくて、スケジュール通り休憩して、仕事して、って感じでキビキビ進めようぜ!」

さやらんはおいしそうにお水を飲んでいる。

さやらん「水分ほきゅ〜☆」

さやらんは無事に記憶を取り戻し、カチョロたちに救出された。怖がりだったが、みんなの勇気に背中を押されて、ついに、遠距離魔法ではなく、自分の足でみんなの前に現れた。

そして今は、派遣されていた「再海(さいかい)の宇宙」の調査を続けている。そこは、海中で暮らす穏やかな性格の生き物たちが住む場所。彼らは魔法の扱いに長けており、生活環境の改善に取り組んでいた。

現在は水位を上げるために、試行錯誤を重ねているようで、さやらんも金魚八幹部として、手伝っているらしい。

さやらん「うるさいなぁ。僕は、休憩しながらのんびり働くほうが、楽しいと思うけれどね。残った仕事は、明日やればいいし。今日は定時であがりなよ~♪

僕はこれから、再海の宇宙に向かうよ。

すっごく優しい生き物たちばかりでね。

海底のお城で、美味しいお料理やお酒をご馳走してくれるんだ。」

クロサキ「お、お前ッ、調査とか言っておいて、飯食ってくつろいでるわけじゃねぇだろうな!?」

さやらん「ん? じゃあね、いってきまーす♪」

さやらんはマイペースに、時空のトンネルへと降りて、姿を消した。

そこにふうがとユニタスがやってきた。

ふうがの後ろには、ぞろぞろと……かえるたちと、「絶望のイフ」たちがついてきている。彼らは、金魚八に帰ってきた元・絶望の存在たち。ふうががリーダーとしてまとめていた。

イフたちの額には「かっこいいから」という理由で、絶望の破片が今も埋め込まれているままだが……表情はどこか楽しげだった。

ふうが「クロサキ!大変だ!おれのイフが一人、時空のトンネルで迷子になったらしいんだ!」

絶望のイフA「時空のトンネルで迷子……すでに絶望している存在なのに、さらに絶望しているでしょうね。」

絶望のイフB「ありますよね、自分が方向音痴だってこと、忘れて突き進んでしまう瞬間。」

絶望のイフC「バカな子……ああ、本当に可哀そう。」

ふうが「おれが助けてやるから安心しろって!おれのチームは、一人でも欠けたらつまんねぇんだよ!

なぁ、ユニタス、イフはどこで泣いてんだ?調べてほしい。」

ユニタス「今、検索中です……見つけました。ちょっと遠いですが、今すぐ向かえば、明日の朝には戻ってこられます。どうします?♪」

ふうが「徹夜かよ!まぁいいや、行ってやるか!イフ!他にやることもねぇし、お前らは自由時間な!解散!」

絶望のイフD「木工細工でもしましょうかねぇ。新しいかえるグッズを作るのも良い。」

絶望のイフE「ワタクシはピアノの練習をしてから、風呂に入って寝ます。」

ふうがは自室で出発の準備を整えると、ひまわりの看板が掲げられた扉を開けて、中へ入った。そこには、ゆずはが待っていた。ふたりの左手薬指には、ひまわり色に輝く宝石……霊界の思い出が光っている。

ふうが「おれ、時空のトンネルに行ってくる!友だちを助けに行くんだ。」

ゆずは「ひとりで!?そんなの心配だよ……ああ、心配でおかしくなりそう……!

ちょっと待って、持っていくもの、用意するから!

U-時空逆転マシーンに、手作りのお弁当、寂しいときに見られるオレの写真、

オレのボイスつきデジタル時計、お守り用のオレの奥歯、

それから……!!!」

ふうが「U-時空逆転マシーンだけあればいいぞ。

ゆずはが愛してるのちゅーしてくれたら、行ってくる。」

ゆずは「ちゅーだけじゃ、寂しいよね!?

手作りのお弁当、写真、ボイス時計、お守りの奥歯も持ってってよ!」

ふうが「いらねぇよ!……ああもう、……じゃあ、お弁当だけもらっておこうかな。何か食べたくなるかもしれねぇし。

奥歯は口の中に戻しとけよ!!」

…ふうがを見送った後、ゆずははひとり窓の外、空を見上げた。

宇宙の深層までたどり着き、コメットとイフクーンを覗き見て、バレずになんとか帰還した。

もしも、ふたりがまた悪事に手を染めるようなことがあったら。誰よりも早く、それを見つけて、止めなければならない。それが金魚八の役目、自分自身の役目だと……クロサキ達に真実を話した。

だからゆずはは、常にセカイ全体を見つめている。

彼のポジションは「金魚八・宇宙の管理人」。

そんな重い責任を抱えながらも、日常ではふうがとふたり、金魚八本部の社有社宅で暮らしている。

それが今の、ゆずはの日常だった。

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タコタコタコ星・テーマパーク

ほめと、カチョロ、たんぽぽ、コック早乙女、

モジ、ちえる店長、ピピヨン、まちる

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頭にはタコのぬいぐるみがついたカチューシャ。首から下げている、ポップコーンが詰まったタコ型ボックス。

ほめとたちは笑いながら、わいわいと楽しそうに歩いている。

その少し後ろ、一歩下がった場所から、カチョロは静かに、優しい眼差しで彼らを見守っていた。

ほめと「ちわたも来れたらよかったのにな~♪ モジさんの誕生日お祝い、超楽しいよね!」

たんぽぽ「お仕事頑張ってるんだし、仕方ないよ。僕たちにテーマパークのチケット人数分をプレゼントしてくれるなんて、ちわたさん、粋だなぁ♪」

たんぽぽは、すでに空っぽになったポップコーン入りのボックスを三つも抱えていた。まだまだお腹ペコペコだ。

モジ「僕の誕生日を、みんなにお祝いしてもらえるなんてびっくりだよ。テーマパークなんて久しぶりだし……ちえる店長もピピヨンさんも一緒で、すごく嬉しい。」

そう言いながら、モジは買ったばかりの大きなタコのぬいぐるみを、ぎゅっと大切そうに抱きしめていた。

まちる「パレードも見たし、何か乗ろうよ~!」

ピピヨン「何乗る? コック早乙女さんは何が好き?」

コック早乙女「わたくし、テーマパークは初めてで……どんな乗り物があるのかも、実はよく知らないんです。」

ちえる店長「じゃあ、いきなりジェットコースターとかじゃなくて、まずはメリーゴーランドにしてみたらどうだい?」

ピピヨン「それいい!ていうか、宇宙船を操縦できる人なら、怖い乗り物なんてへっちゃらだよね?コック早乙女さんの新しい宇宙船、すっごく速いんでしょ?」

コック早乙女「わたくしの宇宙船は速いですが、うーん……乗ってみないと、わかりませんね。色々乗ってみたいです♪」

ピピヨン「モジ君たち~!次、メリーゴーランドね!」

そんな中、カチョロがそっとほめとに声をかけた。大きな角に四本の手、ひらひら揺れるマント。目立つ姿なのに、不思議な魔法の力で、誰も気に留めない。不思議な存在ではなく、ただの大きな人間……そんな空気を、カチョロは身にまとっていた。

カチョロ「ほめと君、メリーゴーランドって、なにかな?」

ほめと「あれだよ! 馬に乗って、くるくるまわるやつ!」

ほめとは嬉しそうに、回転する乗り物を指さす。

カチョロはその方向をじっと見つめた。

馬のようなものにまたがり、くるくるまわるだけの……機械。何のためのものだろう。どこへ行くわけでもない。カチョロは不思議そうに全体を眺めていた。

ほめとたちはチケットを手に、ワクワクしながらメリーゴーランドに向かって走っていく。

カチョロは少し離れた場所から、その様子を見つめていた。乗り物の意味は、よくわからないが……楽しそうに笑いながらはしゃぐ、ほめとたちの姿に、ずっと癒されていた。

光がきらめき、音楽が鳴りはじめる。

メリーゴーランドがゆっくりと動き出し、回り始めた。

きらきらのイルミネーションの中、ほめとたちが笑いながら、楽しそうに馬に乗っている。

その光景を目にした瞬間

カチョロは衝撃を受けた。

ふらりと膝をつき、崩れ落ちる。

カチョロ「なにかな、この気持ち……ほんとうに、愛らしい!!

メリーゴーランドは、いたいけな人間を……より可愛らしく見せるための、機械ということなのかな?

沢山の人間がまわっている。素敵、素敵。

ああ、可愛い……可愛い……。」

目をうるうるさせながら、カチョロはその場に座り込み、

回転するメリーゴーランドに向かって、ずっと手を振り続けていた。

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タコタコタコ星

深夜・公園

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誰もいないベンチに、人影がふたつ。

家出中のふたりは、行動を共にしていた。

少ない街頭……月の明かりを見上げながら座っている。

ひとりは、「ふゆの」。

ふゆのはサラサラの髪を指先でいじりながら、もう一人の青年と、ぽつりぽつりと言葉を交わしていた。

ふゆの「ねぇ、ねると君。どうして僕たち、生き返ったのかな?デスゲームで死んだのに。夢なんかじゃないはずなのに。」

ねると「知らない。……あーあ。お腹すいた。もう金もないし。マジで、どうする?」

ねるとという青年も、マシロ主催のデスゲームで命を落とした一人だった。

でも、気がつくと洋館で目を覚ましていた。命を落としたはずの他の参加者たちも同じように眠っていて、少しずつ目を覚まし、元いた場所へと帰っていった。

外は……タコタコタコ星の日常が広がっていた。

しかし、ふゆのとねるとには帰りたい場所がなかった。

ふたりは、そのまま行き場もなく、ふらふらと彷徨っていたのだった。

ミステリアスで中性的、どこか品のあるふゆのとは対照的に、ねるとは胸元の大きくあいたシャツを着こなし、どこか悪そうでヤンキー風の雰囲気をまとっていた。

ねると「ふゆの、家族はいるの?そいつら、悪人?それとも、君がひねくれてるだけ?……僕は、帰っても親にいじめられるだけだし、本当に一人。しかも、僕はひねくれてる。」

ふゆのは空を見上げながら、ぽつりとつぶやく。

ふゆの「……ひねくれてるだけ。」

ねると「そうなんだ。それなら、帰ればいいのに。

……ひねくれてるから、無理か。」

ふゆの「優しい環境で、愛されて育ったのに、優しい人になれないの。正しくて、優しい人になりたいって思ってるけど、自分を変えられない。……ゆがんだ心の持ち主。環境のせいなのかな。

それとも、僕自身のせいなのか……ずっとわからない。」

ねると「君のいう、優しさって、なに?僕に付き合って、家出を続けてくれてるのは、優しさじゃないの?

ついてくんなって脅しても、君は可哀想って言って、ついてきた。僕がキレて殴ったら、倍の力で殴り返してきて返り討ちにされたし……君は相当変わってるとは思うけどね。」

ふゆの「悪い人、怖い人に興味があるだけ。優しさじゃなくて、君が弱いだけ。」

ねると「そうか。それでも、別にいいけど。」

ねるとは、ふいに立ち上がった。

ふゆの「どこ行くの?」

ねると「ふゆのの家。」

ふゆの「はぁ?」

ねると「家族、心配してるんでしょ?帰ろ。君の家族がどんなやつなのか、興味あるんだ。

……僕も連れてってよ。」

ふゆの「そ、それは……ちょ、ちょっと考えさせて。」

ねると「迷うことある?あ、そっか。男連れて帰るの、恥ずかしい?」

ふゆの「んもー……!わかったよ。でも別に君、彼氏でもなんでもないからね?ついてきなよ。多分、僕の親は優しいから……君のことも、守ってくれると思うし。」

ふゆのは、しぶしぶと腰を上げた。すると、ねるとが当たり前のように、強引に手を繋いできた。

ふゆの「……なに、勝手に。」

不機嫌そうに言いながらも、その手を振り払うことはなかった。むしろ、どこかまんざらでもない表情をしている。

夜空の下、街灯の光がふたりの影をそっと重ねる。

ふたりぼっちの帰り道。

ふたりは、少しずつ歩き始めた。

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青色の不死の星

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現世でアルバイトを終えたさくらは、天国の自宅にルンルン気分で帰ってきた。玄関で靴を乱雑に脱ぎ、白い翼で羽ばたいて、ハイスピードでリビングに向かう。

さくら「からす! ただいま!!ヘヘッ♪

晩ごはんの唐揚げカレーライス買って帰ってきたから一緒に食おうぜ……からす?

あれ、どこ行ったんだ?」

からすが見当たらない。

さくら「からす?どこ行っちまったんだ?」

からす、からす。棚の後ろまで探したが、どこにもいない。さくらは頭が真っ白になった。

さくら「大変だ!!からすが攫われた!!!」

絶望しかけたその時、背後から声が飛んできた。

ささめき「なにやってるのよ、さくら!今日はみんなで焼き肉行くって約束してたじゃない!

バイト終わったら直行って言ったでしょ!?

迎えに来て正解だったわ。

からすさんも、むむちゃんも、さくまちゃんも、焼き肉店の前で待ってるわよ!あと数分で予約時間なんだから、早く行くわよ!」

さくら「仕事忙しくて忘れてたー!!しかも唐揚げカレーライス買って帰ってきちまった!!」

ささめき「冷蔵庫に入れて明日食べなさい!急いで!!」

さくら「……そうだな!!!」

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青色の不死の星

からす、さくら、

ささめき、むむ、さくま

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店内は、ジュウジュウとお肉が焼ける音と、笑い声でいっぱいだ。鉄板の上では、脂の乗ったお肉がキラキラ光りながら焼かれている。

からす「おにくおにく♪お・い・し・いなぁ~♡はい、さくら君、あーん!」

さくら「あーん……もぐもぐ、うめぇ~♪」

からす「よく噛んで食べるんだぞぉ、さくら君……はぁ、可愛いなぁ。もぐもぐ、もぐもぐ、ごっくん。」

さくら「ささめき、もっと焼いてくれ!」

ささめき「自分で焼きなさいよ。むむちゃん、食べれてる?」

むむ「うん♪ 超おいし~♪ 食べ放題だし、おかわりし放題最高~♪今日はダイエット中止だね。」

さくま「ダイエット?初耳だな。毎日おかわりしてるくせに。」

むむ「う、運動してるも~ん!」

さくまはニヤニヤしながら肉を返す。

むむ「さくまちゃん、そのお肉、すっごく大切そうに焼いてるけど……お気に入りの部位?」

さくま「極上の肉。ささめきのために焼いている。」

むむ「なにそれ一途~♪」

さくまは照れくさそうにしている。

さくま「……もっと強くなろうな。むむ。」

むむ「もちろん♪」

テーブルの上は小皿でいっぱい。

さくらとからすの左手薬指には、お揃いの、サファイアブルーの指輪がきらめいている。

幸せが、じゅうじゅう焼けていた。

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青色の不死の星

深夜・天国の公園

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むむはひとり、ジャングルジムのいちばん上で、夜風にふかれていた。ここは、時々訪れるお気に入りの場所。誰にも会いたくないとき、心の中がざわざわするとき、ここに来る。この高さからは、海が見える。静かに波打つ水平線が、どこまでも続いている。

あの先に、なにがあるんだろう。

時空のトンネル。宇宙の奥底。今も、彼は、どこかで泣いているのかな。

私のことなんて、きれいさっぱり忘れて、どこかで元気に生きていてくれるなら、それでいいのに。

星の数ほどある宇宙に、ひとしずくの想いを流しても、答えなんて返ってこない。波の音と、夜風が、そっとその想いをさらっていく。

そのとき砂利を踏む、足音がした。

むむ「……とおこちゃん!」

月明かりに照らされて、とおこが現れた。

ドレスの裾をそっとつまみながら、少しぎこちない手つきでジャングルジムを登る。

とおこ「お隣、よろしくて?」

そう言って、むむの隣に腰かける。

夜風に揺れる長い髪が、月光を受けてきらめいていた。

とおこ「ささめきさんが、「むむちゃん、たまにこの公園に来る」って仰っていたから、歩いてきましたの。……どうしても、お会いしたくて。伝えたいことが、ありますのよ。」

むむ「遠いのに、わざわざ来てくれたの?……なに?なんでも聞くよ。」

むむは、そっととおこを見つめる。夜風にそよぐ髪、すました横顔、長いまつ毛……とおこは、きれいだった。

とおこ「未来を予知しましたの。」

ふっと、いたずらっぽく笑うと、髪を耳にかけながら、とおこは、むむの寂しそうな表情を、優しく、そしてまっすぐに見つめ返した。

とおこ「遠い宇宙。どの宇宙でも、彼の隣の席は、もう埋まっておりますわ。……もう、あなたが入るすきはないの。」

その言葉は、冷たくも温かい。

とおこ「黄金の大剣が、運命を切り開き、彼らを救い出す。止まっていた時は再び動き出し、色を失っていた世界はその輝きを取り戻す。

彼らは、前に進んでいく。そういう未来ですの。」

……じんわりと心が軽くなるのを感じた。

胸に広がるのはかすかな安堵。滲んでくる涙。

とおこはそっとむむの手をとり、両手で包み込んだ。優しく、しっかりと。

とおこ「あなたの未来は、この星にありますのよ。」

夜空には、どこまでも続く星々……。

風がやさしくジャングルジムを吹き抜ける。

むむは、こらえきれずに、とおこを抱きしめた

むむ「とおこちゃんと出会えてよかった、教えてくれてありがとう。」

とおこ「……こちらこそ、助けてくれてありがとう。これからも、あたくしを守ってくださる?」

むむ「あたしが守る。……大丈夫。」

ふたりの間に流れる静けさと優しさ。

心を満たしていく。止まっていた時計の針が、動き始めた、そんな気がした。

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緑色の発明の星

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とおこがむむに会いに行っているあいだ、ことおとオキは、深夜も営業している居酒屋で遅い夕食をとっていた。賑やかな店内。テーブル席にふたりと、くま&新入りのうさぎ型ロボット・レッキーが座っている。

ことおは、熱燗をちびちび飲みながら、湯豆腐と、つくねを味わっていた。

ことお「オキはどう思う?

この星にもさ、死後の世界的なやつを作ってみたいって思って話。俺なら、さくらたちよりもうまくやれる気がするんだ。いや、深海の力もあるしさ……なんか、やってみたいって感じ?♪」

オキ「ふーん。好きにすれば?もぐもぐ、もぐもぐ…。」

オキはというと、話を聞いているのか、聞いていないのか、夢中で激辛スンドゥブをかきこんでいる。もう何杯目かわからない。

ことお「オキ、だ、大丈夫……?なんかヤバいよ?」

くまとレッキーが、オキの顔をのぞき込む。

オキの目はギラギラと輝いていた。

破壊衝動という本能を抑える生活にも慣れてきたが、どこか物足りなさがあった……しかし今、オキはついに見つけたのだ。合法的で、破壊的で、刺激的な快楽を!

オキ「激辛最高……!はぁはぁ、これだよ……これが……欲しかったんだ……!これが美味しいってことなんだね……もっと、もっと辛いのをちょうだい!!!!」

燃えるようなスンドゥブを食べ終えると、オキはふいに顔を上げ、くまとレッキーに言った。

オキ「一口、食べる?」

ビリビリはじける鍋を見て、くまとレッキーは顔を引きつらせながら、そろって首を横に振る。

オキは次に、唐辛子をくわえたまま、ことおを見つめた。

……ことおも、ゆっくり首を横に振った。

ことお「え、遠慮しておくよ……。」

居酒屋の空気が、一瞬だけ静まった、そんな気がした……。

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