さくら「……ッ!!!ゲホッ、げほ、いってぇええええ!!!さ、さくま、早く回復魔法使え!!耐えられる痛さじゃねぇ!!!!」
地面に倒れてから、わずか三秒。さくらはハッと目を覚まし、激しい痛みにもがきながら、叫び声を上げた。
さくまは一瞬、気が動転していた。しかし、さくらの声に我に返った。すぐさま駆け寄り、手をさくらの傷口の上にかざし、回復魔法を使った。
さくま「回復できたぞ!この回復力……深海の力の影響か? いや、違うな。これは、我の本来の実力だろうな。」
さくら「痛かった……。でも、しんだりしねぇ!!俺は、体をバラバラにされても、撃たれても、毒飲まされても、なんだかんだ生き残れちまう、丈夫で幸運な元星の化身なんだ!!」
さくらは恐怖と痛みをかき消すように、ブンブン首を振ってから、自分のほっぺたをパチンと叩いた。身を起こし、顔をあげると……倒れているからすと、散り始めて輝いている星と、からすを揺さぶったり声をかけたりしている仲間たちの姿が見えた。
さくら「からす!!しっかりしろ、からす!!」
さくらは駆けつけて、ぐったりとしたからすを抱き起した。
からす「うーん、うーん……」
カチョロ「さくら君、まずは安心して、落ち着いて。回復魔法も、痛みを消す魔法も使っているから、からす君は生きているよ。どこにもいかない。」
カチョロは寂しそうに、からすの頭を撫でている。
さくら「カチョロ!じゃあなんでからすは起きないんだよ!!変な魔法かけられてるんじゃねぇの!?」
むむ「星も散りかけてるよ……!」
ささめき「からすさん……手が震えてる。きっと、怖かったのよ。私たちも、まだ動揺してるでしょ?からすさんも同じよ。声も出ないくらい、星が消えそうになるくらい、……ショックを受けているのよ。」
とおこ「さくらさん、からすさんを安心させてあげて。様子がおかしくなってしまったユニタスさんのことは、今は、お兄様たちに任せましょう。」
さくら「……ああ。」
さくらは、からすの震える手をそっと握った。そしてその手を、力強く引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。
さくら「からす、大丈夫。怖いけど、辛いけど、からすがいないと、俺、何も出来ねぇんだ。だから、俺と一緒に、戦ってくれよ。」
まっすぐな目で伝えると、からすの手の震えがおさまった。からすはむにゃむにゃと寝言を話している。星の消滅も止まり、元に戻っていく。
安心したさくらが、ふっと視線を横に向けると……少し離れたところにいる、ユニタスたちが見えた。
クロサキ、イフクーン(と、金魚八の組織員)、オキたちが、ユニタスと睨み合っており、ピリピリとした張り詰めた空気が伝わってきた。ことおは物陰で、魔法コンピューターを操作し、調査している。
クロサキ「ユニタス、マジでどういうつもりなんだ!?突然、からすとさくらを撃つなんて、どうかしてるぜ!!」
ユニタスは「そうですかね?」ととぼけたふりをした。
オキ「きっと、さやらんに乗っ取られちゃったんだ……操られているんだ!そう、だよね?」
ユニタスはまた、「そうですかね?」と言い、笑みを浮かべながら、銃口をクロサキへと向けた。
クロサキ「やめろよ!!」
周囲の空気が冷えていく。
ユニタス「オキさん。こんな僕でも、これからも友だちでいてくれますか?」
その声は、優しくて、でもどこか歪んでいた。
オキ「ユニタス……。こんなの、つまんないよ?……寂しいよ。」
震える声。信じたい気持ちと、信じきれない現実が、オキの心をかき混ぜた。
イフクーン「問題は、いつから操られているのかと言うことでしょう。」
金魚八のメンバーA「イフクーン様!精神分析魔法は、高度な魔法技術によってブロックされており、正確な事実確認はできません。ですが、我々の魔法を遮断できるような高度な技術を持つ魔法使いは限られています。ユニタスの様子がおかしくなったのは、さやらんが原因とみて間違いないでしょう。」
金魚八のメンバーC「ユニタスは、かなり前の段階から操られていた可能性が高いと考えられます。からすは、仲間の記憶や人格を守るために、深海の力を配りました。つまりユニタスは深海の力を得る前から、すでに操られており、力を手に入れるタイミングを狙っていたのではないでしょうか。」
金魚八のメンバーB「ユニタスは、タコダイオウの機体から突然生まれた不思議な人格。突然変異のようにロボットから修理できない生身の体質に変化し、タコタコタコ星の星の力まで手に入れてしまいました。ゆずはが手を加えたのならば、霊魔法を手に入れている可能性だってある。……そもそも、ユニタスという人格が本当に存在していたのかさえ、疑わしい状況です。」
金魚八のメンバーC「さやらんは、我々に対して、遠距離魔法でしか干渉できないとされています。つまりユニタスは、星の力や深海の力、霊魔法を物理的に奪い取るために用意された媒体(ばいたい)だった可能性が高いと考えられます。」
イフクーン「難しくて何言ってるかわからないので、ワタクシにもわかるように説明してください。」
クロサキ「ユニタスなんて最初から存在してなくて、全部!さやらんの仕込みだったってことだ!!」
イフクーン「なんですって~!?」
オキ「そ、そんなぁ……。」
ユニタス「皆さん、理解力があって助かるよ。説明する手間が省けた♪」
ユニタスは、魔法でペットボトルの水を創造し、キャップを空けた。ユニタス―‐さやらんは、美味しそうに水を飲み始めた。
ユニタス「
………「
さやらん「
さやらん「水分ほきゅ〜☆
皆さんの言う通り、この体(ユニタス)は、遠距離魔法で操作してる、ただの便利なアイテム。おかげで霊魔法のこともよくわかったし、タコタコタコ星が今まで侵略して手に入れてきた膨大な星の力も、魔力も、それに……深海の力まで、ぜーんぶ手に入れちゃった。
この体は最強だけど、やっつけても無意味だよね。宇宙の深層にいる僕は、元気プリプリだから♪
深層に行くのって、すっごく難しいんだ。僕の所へは、誰もたどり着けないだろうね。……まぁ、それも、この体をやっつけられたらの話だけどね。」
さやらんの声はさくら達にも届いていた。
さくら「ユニタスがはじめからいなかった!?そんなはずねぇだろ、俺、ずっと一緒にいたし、ゆずは先輩も、ふうがさんも怪しんでなかっただろ?ゆずは先輩が気が付かねぇはずねぇと思うけど……。」
その時、からすが目を覚ました。
さくら「からす!大丈夫か?痛いところはないか?」
からす「ああ、大丈夫。しかし……大変なことになってしまった。まさか仲間の中に、悪いことを考えている人がまぎれているだなんて、想像もしていなかった。」
さくま「かえるを集めてきたら、さやらんの遠距離魔法を弱められないだろうか?魔力を不安定にする特性がある、あのかえるだ。」
むむ「うーん、難しいんじゃないかなぁ。魔法を使ってる本人は宇宙の深層にいるし、あたしたちの魔力が不安定になってしまうだけかも?」
さくま「……それは危険だな。やめておこう。」
さやらんは、にやりと笑いながら、絶望の破片を取り出し、みんなに見せびらかした。それは、かつてのカチョロの深い悲しみの結晶。
その時、仲間たちの顔に、足元に、そして体に……赤い光が、ちらちらと走った。長距離射撃魔法武器「暗黒溶(あんこくとく)」が狙いを定めているのだ。
赤い光の点が、一つ、二つ、三つ……十、二十、三十‥…数えきれないほどある。絶望のイフたちが、遠く離れた星々から、同時に狙いを定めている。
さくら「こんなの、勝ち目無くね!?」
からす「……。」
からすは、悔しそうにうつむいている。そのとき、ささめきが一歩、前に出た。まっすぐさやらんを見つめて、口を開いた。
ささめき「ねぇ、さやらん。あなたほどの力があれば、宇宙を滅ぼすのも、支配するのも、たやすいことでしょうね。でも……支配して、その先に何がしたいの?まさか、イフクーンへの恨みを晴らしたいだけなんて理由じゃないでしょう?イフクーンなんて、私でもやれるし。」
イフクーン(この小娘……!)
ささめきは、さらに一歩踏み込む。
ささめき「あなたが本当に欲しがっているのはコメット。セカイを司る、魔法の化身。違う?」
さやらんは、その言葉にほんのわずかに口角を上げた。
ささめき「宇宙の深層に行く手段を持っている、異次元的な遠距離魔法を使いこなす……そんなあなたが、コメットの秘密、この宇宙の真実を知らないはずがないわ。」
さやらん「……さぁ、どうかな?僕に勝てたら、教えてあげてもいいけどね♪」
さやらんの姿が黒く染まり、怪しげな漆黒の衣装へと変わっていく。衣装は、水面に浮かぶ影のように、怪しくゆらめいている。絶望の破片を掲げると、ギッと音を立てて変形し、禍々しい片手剣に変形した。腰から大きく鋭いヒレが生えており、周囲には無数の水の塊がふよふよと浮かんでいる。まるで、宇宙の深海から現れた、絶対的☆強キャラ!
さやらん「僕と戦ってみたい人〜?♪」
クロサキがイフクーンの背中を押した。
クロサキ「いけ!イフクーン!!百万ボルト!!」
イフクーン「うるさい!!そんな技使えませんし、ワタクシが勝てるわけないでしょ!!」
クロサキ「イフクーン、武の達人なんだろ? 魔法なしで素手勝負なら、ワンチャンあるかもしれねぇじゃん。」
さやらん「魔法なし、武器なし、素手オンリーのルールでもいいよ♪」
イフクーン「なるほど。では少々、腕試し、してみましょうかねぇ。」
とおこ「イフクーンさん、いけませんわ!下がってください!
以前、イフさんが個性的な装いの男性と、握りこぶしでファイトをしている予知夢をみたと、お伝えしましたよね?まさにそれが、今、この瞬間なのですわ!勝負に勝てる未来は、どこをどう見てもありませんし…… 誰も得しませんわ!皆さんが困ってしまうだけですし、何より……時間の無駄ですわ!!」
イフクーン「…‥ご安心を。戦うつもりなんて、一ミリグラムもありませんよ。」
クロサキ「それなら仕方ないな。」
その時。ことおが転びそうになりながら、走ってきた。
さやらんのことは気にもとめずに、慌てた様子で、空中に大きなモニターを表示させた。そして、現在のタコタコタコ星の様子を映し出して見せた。皆、ことおの話を聞くまでは、その星がタコタコタコ星であることがわからなかった。
なぜなら、
星全体が
炎に包まれており、激しく燃えていたから。
ことお「ヤバいやばい!!タコタコタコ星が燃えはじめたんだ……!!タコパチ☆ファイヤーによく似た炎魔法だ!レッドデビル☆カンパニーの社員が宇宙船で、住人を避難させたり、消火したりしようとしている様子だけど、全然間に合ってないよ!」
クロサキ「ま、マシロは!?」
ことお「応答がないんだ!!俺の魔法通信やテレパシーが遮断されているのか、応答できない状況なのかはわからない……生きてると信じたいけど……。」
クロサキ「そんな……マシロ、生きてるよな?今、マシロは耐火性の服もマントも着てないんだ、マシロ……。」
ことお「タコダイオウとも連絡が取れない!星は散り始めてもないから、生きてるとは思う!
でもブレイブ☆タコキスたちとも通信できないから、タコキスヒール☆ギャラクシーできる人もいない!!あ〜無理ぃぃ!!おしっこ漏れそう~!!」
クロサキ「さやらん……お前、なんてことするんだ……燃やすなんて、ありえねぇ。
俺は今すぐ、金魚八の奴らと一緒に、タコタコタコ星に向かう!!!」
駆け出そうとしたクロサキの腕を、とおこが強く掴み、引き止めた。
とおこ「待って!!クロサキさん、ダメですわ!!今、未来を予知しましたの。
タコタコタコ星は……このあと、爆発して消滅します!」
クロサキ「……ば、爆発!? ばくはつって、なんだそれ!!」」
とおこ「詳しいことはまだ……。でも確実に爆弾が爆発する未来が視えたの。そしてもうひとつ視えた、大事なメッセージ「銀色は安全」。焦らずに……お兄様と協力して、このメッセージの意味を考えましょう!」
ことお「えーと……よくわかんないけど、銀色のなにかを、なんとかすれば、爆発を止められるってことじゃない?」
クロサキ「なにかって、なんとかって…なんだよ…。」
からすが駆け出し、ことおの魔法コンピューターに触れた。
からす「イカパチ君たちは生きている。きっと魔法通信やテレパシーが、さやらんの高度な魔法で遮断されているんだ。突破できれば、連絡が取れるはずだ。協力しよう。」
ことお「わかった。」カタカタ…出力を上げ、キーボードを操作する。
二人分の魔法と深海の力が働いて、コンピューターは唸り、熱を持ち始める。マシロとタコダイオウの様子を映し出そうと、探し出そうと、必死に求めて、モニターの映像が乱れる。
そして、接続され、マシロの様子が映し出された。
マシロは土まみれになりながら、足をケガしたタコダイオウを抱えて、地下道を走っていた。マシロが持っているランタンが、周囲を不安定に照らしている。
クロサキ「マシロ!!!」
イカパチ「この声、クロサキ君!?僕の様子、みえてる?聞こえてる?お兄ちゃんの偽物「絶望のタコパチ」が現れて、タコパチ☆ファイヤーを連発してきたんだ!タコダイオウがやられたら、星ごと消滅しちゃう。だから地上のことは、レッドデビル☆カンパニーに任せて、僕たちは地下に逃げてるんだよ!!」
タコダイオウ「この地下道は、レッドデビル☆カンパニーの社員の方が、魔法の掘削機の性能テスト用に掘っていたものです。入口は塞いだので、絶望のタコパチは追ってこられないはずです。」
しかし、イカパチは岩と土の壁を前にして、立ち止まった。……行き止まりだ。
イカパチ「タコダイオウ、大丈夫?」
タコダイオウ「ええ。もう大丈夫です。社長の回復魔法が効いてきました。もう痛みはありません。……ん?地面になにか落ちていますよ?」
それは、小型の機械だった。
小さなモニターには、赤く点滅する数字「10:00」。むき出しのコードが三本。金色、銀色、黒色。そこから放たれる圧倒的な魔力の気配。
10:00…09:59…09:58…
減っていく数字。これは、時限爆弾!!!
さやらんが得意げに話し始めた。
さやらん「ふふふ……それは、タコタコタコ星の星の力と魔力全部を圧縮し、搭載した、特別性の爆弾だよ。爆発すると、超新聖爆発が巻き起こる♪」
さくら「からす、ちょうしんせいばくはつってなんだ!?」
からす「ちょっと待って、脳内で検索してみる。
……超新聖爆発は、宇宙全体が星のはなびらのように舞い輝く、この宇宙でもっとも美しい現象のひとつだ。」
さくま「う、宇宙全体が星のはなびらになるのか!?」
むむ「それ、ヤバくない?宇宙滅ぶってことじゃないの?」
ささめき「そんなの、絶対美しくないわよ!……カチョロさん、詳しいこと、知ってる?」
カチョロ「……超新聖爆発はね。僕の宇宙「大空の宇宙」が滅ぼされた時に起きた、現象のこと。僕が覚えている大空の宇宙の景色は、それだけ。星たちが、花びらのように散っていく。綺麗で……でも、とても静かで、怖かった。
爆発の衝撃が強いから、 星のはなびらは棘のように変形して、広い範囲に飛び散る。それが他の星に突き刺さって、また次の星を滅ぼす。そうやって、破壊と悲しみが瞬く間に連鎖していくんだ。宇宙全体が、ドミノ倒しのように崩れていく……そして最後には……宇宙そのものが、時空のトンネルの中へと溶けて、消えてしまう。」
オキ「イカパチ、タコダイオウ、その爆弾、なんとか解除できない?いや、絶対に解除してほしい!むき出しのコードが三本あるよね……金色、銀色、黒色。タイマー機能と爆弾機能をつないでいるコードを切れば、タイマーが止まるはず!」
ことお「でも、間違ったコードを選んだら、即爆発しちゃう可能性アリ。……俺の魔法コンピューターの分析によると、タイマー機能と爆弾機能を接続しているコードは2本あるみたいだ。つまり三本のうち、正しいコードを二本切ることができれば、宇宙は救われるってこと♪」
クロサキ「とおこの未来予知「銀色は安全」……きっとこれのことだ!と、いうことは、切るのは銀色のコードと、金色か黒色のコード。実質二択だ!
数々のゲームを乗り越えてきたマシロなら、決められるはずだ!」
イカパチは迷わず銀色のコードを引きちぎった。タイマーは止まらないが、爆発する様子もない。
後は、金色か黒色のコード、どちらかのコードを切ればいいだけ。
さくら「がんばれ……!!」
タコダイオウは、真剣に考えているイカパチの横顔を、何も言わずに、祈るように見つめている。
イカパチ「よーし決めた!!金色を切る!!」
ブチッ(コードを引きちぎる音)
00:02
イカパチ「あ、ヤバ☆」
00:01
ドッカーーーーン!!!!!!!