…青色の不死の星(現世)….
星の民を守るために、さくらが思いついた作戦「現世や死後の世界に住む星の皆を1箇所に集めて避難させる」を実行したからす。
新しい世界(異空間)を作って、星に住む全員をワープさせる。現世で生きてる人に死後の世界のことを知られないように、部屋は区切る。…しかし、マシロに振り回されて、元に戻す暇がなく、今もその状態が続いていた。
からすが作った異空間は、現世や天国、地獄とほとんど変わらない景色をしていたため、ワープしていることに気が付いていない者も多くいた。
しかし、その異空間はあくまで、大きな大きな「部屋」だった。端っこがあり、壁がある。その壁の向こう側には死後の世界がある。
異世界は張りぼてだった。空よりも高い壁には、壁の向こう側の景色が描かれている。向こう側は見えるのに、透明の壁があって、先に進めない。そんな状況だった。
「この壁は何だ?」「家に帰れないんだけど!」「職場に行けないぞ」「気が付いたら知らない駅にいた」「なんだか怖い」「怪奇現象か?」「まさか、夢の中?」
壁の前の人だかり。何が起こっているのかわからない星の民は、困り果てていた。しかし、皆、意外と落ち着いていた。この星では度々、不思議なことが起こるため、このような面倒ごとには慣れていたのだ。空の色が突然真っ赤に変わったり、オバケや怪物が出たり。
離れ離れになった人はいないし、けが人も出ていない。時間が経てば元に戻るだろうという雰囲気だった。
…しかし、壁の前で泣き崩れている男性がいた。
地面にうずくまって、絶望している男性を見て、放ってはおけず、大丈夫かと声をかけた。
顔をあげた男性は、涙をぬぐい、ぽつりぽつりと話しはじめた。男性は、会社員として働きながら、絵本作家として活動しているらしい。手描きの原稿を、編集長に提出しに行く予定があるのに、透明の壁が邪魔をして、出版社に行くことが出来ず、泣いていたらしい。
男性「この原稿は何があっても、今日、編集長に提出しなければならないんだ!これは大事なデビュー作なんだ…!たまたま編集長と知り合って、話が進んで…。来月から会社員をやめて、絵本作家一本でやって行けることになったのに。一作目から締切を守れないようじゃ、信用を失ってしまう…ぅう。せっかくのチャンスが…台無し…!」
男性は鞄の中から、絵本の原稿を取り出して、見せてくれた。子ども向けの絵本のようだ。
頭でっかちで可愛らしい、犬や猫、うさぎのキャラクターが、アニメチックな表現で描かれている。景色は繊細に、写実的に描かれており、そのギャップが魅力的だった。透明感のあるキラキラとした絵の具のタッチが、とても綺麗だと思った。
広大なひまわり畑を楽しそうに探検する無邪気なうさぎたち。ペラリ、次のページの原稿をみると、満天の星空が描かれていた。夏の思い出が詰まった、特別感のあるストーリーだった。男性に、可愛らしくて読み応えもあって、素敵だと伝えた。
男性「ありがとう。会社員は性にあわないんだ。他人とペースを合わせて行動し、時間にしばられ、満員電車に押し込まれ…。過去や特別な力が関係して、未だに腫れ物扱いされているし、なんだか辛かったんだ。わたしはやっぱり、ひとりで仕事をまわしたい、はぁ…とにかく今すぐ辞めてしまいたいと思っていた。
全く新しい仕事に挑戦するために、働きながら、体を鍛えたり、勉強して資格をとったり、画塾に通ったり、色々なことをしていた。やっとチャンスを掴んだのに。…はぁ。まぁ、仕方ないか。今は非常事態なんだ。編集長もどこにいるのかわからないし、落ち着いたら連絡がつくだろう。…お前が声をかけてくれたおかげで、冷静になれた。よければ、名前を教えてくれないか?」
びゃっ肝「我(わ)の名前はびゃっ肝(びゃっき)。見てのとおり、オバケですよ。」
ーーー
な、何だって?オバケ?びゃっ肝と名乗ったそいつをよく見ると…足がふよふよしており、透けていた。オシャレな腕時計をつけており、太陽に反射してキラキラ輝いている。
びゃっ肝「悪いオバケでも、恐ろしいオバケでもないですよ。ええ、はい、本当に。ここにいたのも、人間達と変わらない理由です。
他のオバケと肉巻きおにぎりを食べに行く約束をしていたのですが、壁があってこれ以上進めず、困っていたのです。肉巻きおにぎりは、今度食べに行くことになりました。それで家に帰ろうとしたら、お前が泣いていました。
一応声をかけて見ましたが、無視をされると思っていましたよ。我(わ)がみえるタイプの人間は、多くないので。話ができて少し嬉しいです。
そうだ。面白いものを見つけたので、一緒に見てもらってもいいですか?」
「…はぁ。面倒なことになった。まぁ、いいが。面白いものってなんだ。」
仕方なくびゃっ肝に着いていく。少し歩く。
びゃっ肝「ここの壁です。地面をよく見てください、3センチくらい、隙間が空いているんですよ。ざわざわとした音も聞こえます。
我(わ)がみえるタイプのお前なら、壁の向こうにいる人とも、話せると思いますよ。声をかけてみてほしいのです。
壁の向こうのことが気になりますが、我(わ)は恥ずかしがり屋なので、ひとりでは話しかけられなかったのです」
見てみると、確かに隙間があいている。面倒くさい、興味もない、忙しい。嫌そうな顔をしてみたが、びゃっ肝は気にせず、「お願いしますよ」と背中を押してきた。
壁にもたれて座り、「おーい、そっちはどうだ?」と言ってみた。…しかし、返事はない。このままだと、不審者扱いされてしまう…恥ずかしい、帰ろう。
その時。
壁の隙間から、スーパーボールが転がってきた。思わず拾った。
同時に「うわ〜ん!!スーパーボール、壁の向こうに転がって言っちゃった〜泣」という、小さな子どもの泣き声も聞こえてきた。
「せんせ〜、とってよ〜!泣」「たからものなのに」「うわぁーん泣、せんせ〜」
「とれるかな…危ないから、みんなは近付いちゃだめだよ」
隙間から、大人の男性の指先が出てきた。
「ないなぁ…転がって行っちゃったのかな、ちょっと待ってね」
次はハンガーが出てきた。スーパーボールを探して、取ろうとしている様子だ。
わたしはスーパーボールを壁の向こうに転がした。
元気な子どもたちに話しかける、若くて優しい先生の声…それは、聞き覚えのある声だった。二度と会えない、懐かしい男性の声だった。
驚いて、胸がいっぱいになって…手が小さく震えた。
「やったー!せんせ〜、ありがとう!スーパーボール戻ってきた」「よかった〜」「せんせ〜すご〜い」
「よかったね…って、え?戻ってきたの?壁の向こうに誰かいるのかな?スーパーボール、とってくれてありがとう」
壁にもたれて、空を眺めながら、もう一度声をかけてみた。
わたし「そっちはどうだ?」
先生「そっちはどうだと言われても…突然、おかしな壁が現れて、天国は混乱してるよ。星の化身たちが見当たらないし、このまま星がなくなっちゃうんじゃないかって、皆心配しているんだ。
それで、うちも今日は閉園することになって、子どもたちは家族のお迎えを待ってるんだよ。でも壁のせいで遠回りしているらしくて…みんな待ちくたびれて、退屈してるんだよね。
暗くなる前にお家に帰してあげたいけど、仕方ない。お迎え来るまでは、僕がみんなを守らなきゃ。」
わたし「そちらも同じ状況か。早く元に戻るといいな。天国には、子どもたちも多くいるのだな…。」
先生「そうだね。でも、悲しいことばかりじゃないよ。ここは死後の世界と言われてるけど、広すぎてわけわからなくなってるのが現状さ。
星の化身たちの管理もゆるゆるだから、天国で生まれた子どもたちもいるんだよ。僕もこっちの世界で生まれた人…っていうか、気が付いたら存在してたんだ。不思議なことだよね。星の外から来た人が勝手に住んでることもあるし…。星の化身たちが把握できてるのか、できてないのかはわからないけど…最近は平和だし、ここは、このままでもいいのかもね。」
わたし「そうか、平和なんだな」
先生はわたしと世間話をしながら、子どもたちと遊んでいる様子だ。
「せんせ〜!絵本読んで〜!」「読んで〜!」「新しい絵本読んで〜〜」
先生「ごめんね、今、絵本ないんだ。壁の向こうにあるんだよなぁ…。そうだ、みんなでお話を作って遊ぼうよ。先生、すごく面白いお話、思いついちゃったな〜♪」
「やだー!」「いやいやいやー!」「絵本がいい〜!」
…わたしは持っていた絵本の原稿を、壁の隙間に入れた。
わたし「こういうのは好きか?わたしは絵本作家の卵なんだ。よかったら、貰ってやってくれ」
先生「いいの?ありがとう。…お〜すごい、きれいな絵だね。こういう、子ども時代の夏の思い出って雰囲気、いいよね。僕には子ども時代はないけど、わかるっていうか…少し切ないというか、ノスタルジーな気持ちになるよ。」
わたし「さ、最後まで読んでから感想をくれ。
子ども時代に過ごした夏を懐かしむのはいいが、それで大人になったことを切なく思うような物語を描くのは疲れるから、わたしは違うものを描いているんだ。
大人になっても友だちと星空をみたり、ひまわり畑を探検する物語が好きだ。別に…ひまわり畑まで行かなくても映画を観たり、プラネタリウムで寝たりするだけでもいいし、今はネットがある、知らない奴と感動を共有してもいいんだ。
心が動かされるような体験は、いつでも探しにいけるんだ。これは、そういう絵本なんだ。」
先生「いいお話だね。みんな〜、新しい絵本もらったよ。ページがくっついていないからだから、紙芝居みたいだね」
「かわいい〜!」「みせてみせて」「わくわく」
先生「…ある夏の日。赤ちゃんうさぎさん達はカメラを持って、ひまわり畑へと探検にいきました。今日は大人になった皆で集まって、その時撮った写真を見ながら、色んなお話をしたり、美味しいご飯を食べたりして遊ぶ約束をしています。」
……
…
わたしは立ち上がり、壁から離れて歩きはじめた。びゃっ肝が着いてくる。
びゃっ肝「原稿を渡してしまって、大丈夫なのですか?」
わたし「…いいんだ。あと三作品描いているから、問題ない。それよりも、焼肉は好きか?聞いてほしい話があるんだ、お前になら、全てを話してもいい気がする。いや、話してみたいんだ、今まで誰にも打ち明けられなかったことを。とにかく、少しだけ付き合ってくれないか」
びゃっ肝「波っ波っ波!(はっはっはっという笑い声)。もちろん、いいですよ。あ、でも…どこで、焼肉を食べるつもりなんですか?こんな状況ですし、店を閉めているところが多いと思います」
わたし「肉なら、わたしの家にある。ホットプレートもな。」
びゃっ肝「家に招待してくれるのですか?面白い人間ですね」
かささぎ「お前の方こそ、面白い霊だと思う。…そもそも、どうしてびゃっ肝は平然と、こちら側にいるんだ?気になるな」
びゃっ肝「興味を持ってもらえるのは、嬉しいことです。せっかくの機会なので、我(わ)の話も、聞いてほしいです」
かささぎ「ああ、聞こう。腹が減った、今日は不思議な事ばかり起きるし、疲れたな。しかし、悪くない。心につっかえていたものがなくなった、清々しい気分だ。
本当に描きたい物語を、描けるようになった。そんな気がするからな。」
【13話に続く】
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